関東制覇の横浜エース、2回降板から“たった1日”で復活の裏側 応援皆勤の母へ届けた「ふがいなかった…」
準決勝で2回降板…奥村頼人が投打に大活躍
第77回秋季関東地区高校野球大会は3日、横浜市のサーティーフォー保土ヶ谷で決勝を行い、横浜(神奈川)は延長10回タイブレークの末、4-3で健大高崎(群馬)にサヨナラ勝ち。2007年以来17年ぶりの頂点に立った。「5番・左翼」で先発した背番号1の奥村頼人投手(2年)は、0-1の6回に同点二塁打。さらに8回から3番手としてマウンドへ立つと3回を1安打無失点に封じ、劇勝を呼び込んだ。前日は浦和実(埼玉)との準決勝に先発したものの2回で降板。24時間後の復活には、家族への思いがこもっていた。 【画像】「まさかこんな展開に」「なかなかの衝撃!」 負けを喫した県強豪、試合後に涙する実際の写真 「昨日は“超レア奥村”だったんですよ」 安定感抜群の投球を誇るエースの変化を、横浜の村田浩明監督はこう表現する。浦和実との準決勝は先発マウンドに立ったものの、2回2失点(自責1)で降板。自身の野選や失策も絡んでの乱調だった。迎えた決勝、奥村頼のリリーフ起用を考えていた指揮官は、まず外野で先発メンバーに入れる選択をした。「グラウンドの空気感が分かっているかどうかで、全然違いますから」。そして奥村頼は、期待以上の活躍を見せた。 打っては1点を追う6回2死二塁。最速158キロを誇る健大高崎の石垣元気(2年)から値千金の同点適時打を放った。「打てるだろうとは思っていた」という言葉通り、左翼手の頭を越える大きな当たりだった。 さらに3-3の8回、3番手としてマウンドへ。「レフトでしっかり声を出してチームに溶け込みながらやっていくと、試合の空気にすぐ入り込める」。指揮官の狙いを心得たかのような準備で、強打の健大高崎を抑えていった。タイブレークに突入した10回まで無得点に抑え、勝利を呼び込んだ。そして勝利を誰よりも見せたかった人も、スタンドで喜んだ。
滋賀から横浜の試合に通う母へ「少しでも長く…」
「ふがいなかったから明日は頑張るわ」 奥村頼は浦和実との準決勝を終えた3日夜、家族のグループLINEにこう送ったという。両親は地元の滋賀に住む。母のいつ子さんは「来年の今頃には引退しているから」と、息子の雄姿を目に焼き付けるために、車や新幹線を駆使してスタンドへ足を運び続ける。今大会の3試合も“皆勤賞”だ。 東農大二との準々決勝では、後輩の織田翔希(1年)が完封。やっと出番が訪れた準決勝でのパフォーマンスは、恥ずかしさが先に立った。「やっぱり応援してくれていたので、あんな姿を見せて申し訳ないと思った」という思いからの行動も早かった。準決勝を終えて寮に戻ると、コーチとすぐにキャッチボール。「メディシンボールを使って体の使い方のトレーニングをしたり、刺激を入れたりして、体をしっかり使えるように」と、できることに最大限トライした結果の好投だった。 奥村頼は両親への思いを問われると「勝つことが一番喜ぶと思うので、勝って少しでも長く試合を見せられるように」とはにかむ。この秋の横浜は、チームとして明確な目標を立ててきた。第1章が県大会制覇、第2章が関東制覇。そして第3章は神宮制覇だ。 すぐに、関東代表として出場する明治神宮大会(11月20日開幕)がやってくる。まだまだ両親に試合を見せられるチャンスがある。来春の選抜甲子園出場も決定的だが「選抜は1回置いといて、神宮制覇に向けて、もう一度しっかりやっていきたいと思います」。チームのため、家族のため。横浜の背番号1は第3章に向け、また歩みを進める。
THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda