夫婦優勝にリーチの涙のパルクフェルメ。坪井翔&斎藤愛未のKYOJO CUP初優勝までの物語
富士スピードウェイで行われている2024シーズンのスーパーフォーミュラ第4戦では、女性ドライバーのみで争われるKYOJO CUPが併催され、1レース目となる第2戦で斎藤愛未(Team M 岡部自動車 D.D.R VITA)が参戦5シーズン目で初優勝。パルクフェルメでは、彼女の夫でスーパーフォーミュラに参戦中の坪井翔(VANTELIN TEAM TOM’S)が祝福にかけつけ、優勝ドライバーである妻より先に感極まるシーンがあった。 そこには“夫婦二人三脚”で勝利を目指し、さまざまな苦労や悔しさを味わってきたからこその想いがあった。 ⚫︎夫・坪井翔「“2年前の最終コーナー”がフラッシュバックしてきました」 今回のKYOJO CUPは1周目からアクシデントでセーフティカーが出る波乱の展開となった中、3番手スタートだった斎藤は冷静にチャンスを見つけ出し、7周目に翁長実希(Car Beauty Pro RSS VITA)、8周目に下野璃央(Dr.DRY VITA)を抜いてトップに浮上すると、9周目には2分00秒503のファステストラップを記録。一気に後続との差を広げていった。その後、コースオフ車両が発生したため10周目に再びセーフティカー導入となり、そのまま12周を迎えてチェッカーフラッグとなった。 レース中は妻の走りを祈るように見守っていた坪井。レース後にパルクフェルメで彼女を見た瞬間に、あるレースを思い出したという。 「本人はどうだったか分からないですけど、僕としては2年前にトップを走っていたけど、最後にスピンをして(初優勝を)逃したレースを番思い出したというか、フラッシュバックしてきました」 そのレースというのは、ふたりが結婚を発表した数日後に富士スピードウェイで行われたKYOJO CUPの2022シーズン最終戦。レース後半にトップを奪った斎藤はファイナルラップに入る前の最終コーナーでハーフスピンを喫してポジションダウン。初優勝を目前にしながら悔しい2位フィニッシュとなった。 レース後のパルクフェルメはもちろん、表彰式の間も悔し涙を流し続ける妻を、側で見守っていたのが坪井だった。 「あそこでの悔しさとか、今年の開幕戦(ファイナルラップで翁長に抜かれて0.2秒差で2位)での悔しさを横で見てきていたので……たぶん本人も思うところはたくさんあるだろうなというのは分かりますし、どれだけ悔しかったのかは同じドライバーとして手に取るように分かりました」と坪井。 坪井はKYOJO CUPと同日に開催されるインタープロトシリーズに参戦中で「どうしても彼女のためにも『僕がここで獲らなきゃいけない』という強い思いで挑みました」という決意で臨み、見事、シリーズチャンピオンを手にした逸話がある。 レース終盤、坪井は当時のことが頭から離れなかった様子だ。 「(今回のレースも)後続を少し引き離していましたけど、すごくドキドキして見ていました。『頼むから、このまま終わってくれ』と祈りながら見守っていました。おそらく最後にセーフティカーが入らなくても、あのままトップで逃げ切っていたと思うので、しっかりと自分の手で初優勝をとったというところで……いろいろと思い出して、向こうが泣く前にこっちが泣いてしまいました(苦笑)」 そんな坪井は妻の初優勝を見届けると、すぐにTOM’Sのピットに戻り、自身が走るスーパーフォーミュラの予選に出走。Q2ではわずか0.030秒差で4番手と僅差に泣く結果となった。 「良い流れを引き継いでくれたのかなと思っているので、僕がその流れを決勝に繋げないといけないというところでした。やっぱりポールポジションを獲りたかったですし、良い流れを引き継ぎたかったですけど……この0.030秒の差はすごく悔しい部分はあります」と坪井。 「ただ、ほぼトップタイムだったと考えると流れは良いと思いますし、4番手からならば十分にチャンスはあるのかなと思います。明日は僕も勝って“夫婦で優勝”ということでいっぱい記事にしてもらえるように頑張ります!」と気合いが入っている様子だった。 ⚫︎妻・斎藤愛未「サインガードで主人が喜ぶ姿をみて『自分、優勝したんだ』と実感しました」 優勝後のパルクフェルメでは、夫が感極まるにつられて涙を見せていた斎藤。「まさか主人が泣いてくれるとは思っていなかったので、もらい泣きしてしまいました」と語っていた。 本人としては念願の初優勝ではあるものの、記者会見では「初優勝なのでとても嬉しいんですけど、ひとつ悔しいのはSC先導で終了になってしまったことです」と振り返った。 斎藤は5月の今季開幕戦で自身初ポールポジションを獲得し、決勝ではスタートで翁長の選考を許すも、序盤に抜き返してレースをリードした。しかし、終盤になって翁長に詰め寄られると、最終ラップでの攻防戦で敗れ、0.2秒差で2位という悔しい結果に終わった。 そこから、レース終盤まで見越したタイヤマネジメントや序盤の展開作りを意識して、Team Mの三浦愛監督とともに徹底的に課題克服に取り組んできた。今回は残り5周でトップに立って、順調にリードを広げていた状況下でSC導入となり、一番重要視していた最終盤のレースを経験できないままトップチェッカーとなっていたのだ。 「本当は自分の力を発揮したかったので、(最終ラップの時は)このままSC先導でゴールになってしまうと前回(今季第1戦)での課題がクリアできないままだったので、ちょっと悔しい気持ちがありました」と斎藤。 最後のメインストレートでチェッカーフラッグが見えた時も「『SC先導のままで終わってしまうんだ。なんか悔しいな……』という気持ちが多かったです」と心境としては複雑で、ゴールの瞬間はガッツポーズもできなかったという。 そんな時、視界に飛び込んできたのが、サインガードで誰よりも喜ぶ夫の姿だった。 「チェッカーを受けてからKYOJOのピットよりも前にTOM’Sのピットがあって、そのサインガードで主人が嬉しそうにしているのが見えて、『すごく喜んでくれている!』とすぐに分かりました。その瞬間に『あぁ、自分は優勝できたんだ! 喜んでいいんだ!』と思えるようになりました」斎藤。 「その流れでTeam Mのみんなも(サインガードに)出てきてくれて手を振ってくれたので、そこで初めて自分も喜べました」 自分のことのように喜んでくれる姿に、斎藤自身もこういった結末での初優勝を受け入れることができたようだ。 KYOJO CUPの決勝が終わった後には、すぐにスーパーフォーミュラの予選を迎えるというタイミングだったが、斎藤は「(初優勝して)気持ち的にスッキリしたので、今度は私が主人を応援したいと思います」と記者会見で笑顔を見せていたのが印象的だった。 [オートスポーツweb 2024年07月20日]