「脳腫瘍を患って覚悟が決まった」83歳・現役看護師が働く人生最後に最高の舞台を提供する"看取りができる施設"
■「自分の力で生き続ける」ための体力づくり 80歳を超えてなお、仕事や家族の世話に大忙しの江森さんだが、体力づくりにも余念がない。以前は体力には自信があったが、体力の衰えを感じるようになり、5年前から筋トレジムに週1~3回通うようになった。1週間通わないと、階段の上り下りもきつく感じることがあり、定期的な運動の効果を実感している。 「いつまでも自分の足で外を歩き回りたいし、それが自分らしく生きることにもつながりますよね。そのためにも体力づくりはすごく大事なこと」 パラリンピックを見ていると、健常者よりもハードな競技を自分の力でやり抜くアスリートたちの姿にひたすら感動するという江森さん。結局、人は誰かの手を借りるより、自分の力でやり遂げたいと思っているのだと改めて感じている。 介護施設事業者の中には、利用者はお客様だと考えて、上げ膳据え膳で世話をするところが少なくない。そのほうが事業者としてもラクだという面もあるだろう。しかし、それでは、一人では何もできなくなってしまう一方だ。 「だからね、私はうちに来る高齢者にも意地悪なんですよ。自分でやってくださいねって」。江森さんはそう言いながら、いたずらっ子のような笑顔を見せる。 ■大変なことが多いからこそ、人生はおもしろい これまでの人生を振り返ると、やりたいことにいつも全力で挑戦し続けた日々だった。 「人生は大変なことも多いけど、だからこそおもしろい。私は自分のこれまでの人生は最高だったなと思っていますよ」 83歳の今、あと10年生きることはできないかもしれないと、思ったりもする。しかし、あと5年、次のオリンピックまでは生きていたい。そして、自分がはじめた峠茶屋が順調に回っていくのを見届けなくては、という強い思いがある。 現在、四賀地区の人口は3800人ほど。その5割近くが高齢者だが、高齢者の数自体もどんどん減少している。このままでは、いつかこの集落が消滅してしまうかもしれない。そんな危機感も感じながら、それでも高齢者がいる限り、頑張っていきたいと考えている。 「ここで高齢者たちとこれまでの人生を語り合いながら、残された時間を笑って過ごしていきたいんですよね」 人生をパワフルに、どこまでも楽しむ。それができるかどうかは、自分次第だと、江森さんの笑顔から教わったような気がする。
フリーライター 工藤 千秋