日本のコロナ対策は本当に効果があったのか?...経済学で事後検証する
「自転車操業状態」ともいうべき状態
コロナ禍では、世界各国とも、感染拡大直後は医療だけでなく民間の家計や企業にも大きな損害が生じたため、政府が民間を財政的に支援した。その財源は、大半を国債で賄った。だから、世界各国とも政府債務は累増した。 ただ、コロナ禍からの経済再建が早かった国では、コロナ対策のための財政支援を早期に打ち切り、財政収支が改善できて、経済規模に比した政府債務残高(政府債務残高対GDP[国内総生産]比)が改善している。 翻って、日本はどうだったか。感染防止の規制が残ったこともあってコロナ禍からの経済再建は他の先進国より遅れ、コロナ対策のための財政支援は打ち切れず、挙げ句にコロナ対策と称して感染防止に逆行するような需要喚起策のために巨額の財政支出を出し続けた。その財源のほとんどを政府の借金で賄った。 コロナ対策のために、2020年度に予め満期を定めて発行する国債を84兆円追加で発行した。その7割を超える61兆円が1年以下の満期でしか発行できなかった。2年以下の満期の国債まで含めても70兆円と84%を占めた。 2020年度に1年債を発行すれば、2021年度には早くも返済が迫られる。もちろん、2021年度にその大半を借り換えられたが、過半は2年以下の満期でしか借り換えられなかった。2022年度には、2020年度の2年債と2021年度の1年債の返済が求められ、また借り換えた。 このように、コロナ対策のために増発した国債の大半は、2年以下の満期でしか発行できず、満期が10年以上の長期の国債はほとんど追加で発行できなかった。そして、満期が短期の国債は、返してはまた借り換えるという「自転車操業状態」ともいうべき状態に陥った。 その後に襲うインフレにも後押しされて、2020年度以降税収はコロナ禍でも過去最高を更新し続けているにもかかわらずである。 そうした財政難を知ってか知らずか、政治家は桁違いの追加予算でバラマキ財政を続けた。2020年度から2023年度までの国の補正予算では、年平均で35兆円も当初予算に加えて財政支出を増額した。コロナ前は、年平均3兆円だったことをすっかり忘れているようである。財政では「コロナ禍」はまだ終わっていないのだろうか。 本特集における経済学的な視点を通じて、コロナ禍での出来事を読者が振り返る契機になれば、編集委員冥利に尽きるところである。
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)