ロータス新型「エメヤ」は918馬力の超高性能GT。EVになっても軽快な走りは不変か?【試乗レビュー】
オールエレクトリック・ハイパーGT、エメヤの実力
事実、エメヤのパフォーマンスは極めて高い。 エメヤには、ベーシックグレードのエメヤ、エメヤの装備を充実させたエメヤS、エメヤやエメヤSとは別物の強力なパワートレインを搭載したエメヤRの3グレードがあるが、モーターの最高出力は、エメヤとエメヤSでも612psを誇るほか、よりパワフルなエメヤRにいたっては最高出力918psを豪語。0-100㎞/h加速を2.8秒で駆け抜ける、スーパースポーツカーも形無しのパフォーマンスを発揮する。いっぽうで256km/hの最高速度はスーパースポーツカーに見劣りするものの、高回転域が苦手なモーターを動力源とするEVとしては立派な数値だ。 今回の国際試乗会はドイツのアウトバーンやオーストリアのワインディングロードを2日間かけて巡るもので、「エメヤ・ハイパー・グランドツアー」とのタイトルが与えられていた。 出発地となるミュンヘンで初めて対面したエメヤは、スタイリッシュなデザインが印象的だった。1459mmの全高は、スポーツカーとしては決して低いとはいえないものの、バッテリーをフロア下に積むEVで、しかも車内で長時間を過ごすGTであることを考えれば、この程度の高さは必要不可欠だったはずだ。 いっぽうで、全長5139mmに対してホイールベースが3069mmもあるため、とても伸びやかなプロポーションで、背が高いとはほとんど感じない。シャープなキャラクターラインを置くことなく、なだらかな曲線でフロントからリアまでを結んだスタイリングも外連味がなく、美しい。 キャビンも同様に、ゴテゴテとした印象は薄く、スッキリとしたデザインでまとめられている。しかも、カラーのセンスがよく、エメヤSに用意されたホワイト系のインテリアは明るく清潔感に溢れているのに、どこか未来的な装いも備えている。派手ではないけれど好感の持てるデザインだ。
EV時代の“ロータスらしさ”とは
先に試乗したのは612psのエメヤS。モーターの最高出力だけ聞くと十分にパワフルなようにも思えるが、車重は2455kgもあるヘビー級。しかし、ボトムエンドから強力なトルクを生み出すモーターの特性により、一切の重さを感じさせることなく、軽快にすっと動き出す。 それはステアリングを切り込んだときの印象も同様で、デュアルチャンバー式エアサスペンションはほとんどボディをロールさせることなく、やはり軽快に向きを変えていく。ただし、乗り心地は快適で、市街地走行でもゴツゴツ感を一切感じさせることがなかった。 強大なパワーよりも軽快さ、俊敏さが意識されるという意味では加速感も同じ。発進の動き出しが軽快なのと同じように、アウトバーンの速度無制限区間で最高速トライアルをしても、空気を切り裂きながら強引に突き進んでいくというよりも、風を巧みに避けながらすいすいと加速していくように感じられるのだ。しかも、200km/hを超えてからも加速感が鈍ることなく、そのままカタログ上の最高速度である250km/hに軽々と到達してしまったことには心底、驚かされた。 そうした印象は、基本的にエメヤRにも共通する。ただ、こちらのほうが乗り心地がほんの少し引き締まっているのと、フルスロットルにすると軽い恐怖感を覚えるくらいのダッシュ力を示す点が、エメヤSとの数少ない違いのように思えたくらいだった。 なんとはなしに感じられる軽快さ、そしてステアリングホイール、アクセルペダル、ブレーキペダルの操作感が常に一定で、リニアリティが失われないドライバー重視のクルマ作りこそ、エメヤの真骨頂であり、ロータスの伝統ともいえるもの。もちろん、エメヤがEV嫌いにも受け入れられるとは思わない。それでも、かつてロータスに魅せられ、いまはEVに関心を持っているクルマ好きであれば、エメヤに創業者コーリン・チャップマンの面影を見たとしても不思議ではない。 ちなみに、晩年のチャップマンはロータス2000と名付けられた4ドア・モデルの開発を進めていたが、この計画は彼の死により頓挫したという。