中国からの帰国促した日本企業は2% 深圳の日本男児刺殺1カ月 巨大市場での影響懸念か
中国広東省深圳(しんせん)市で日本人学校の男子児童(10)が刺殺された事件から、18日で1カ月がたった。中国に進出する日本企業の一部は駐在員に帯同する家族の帰国支援などの対応をとるが、多くは注意喚起にとどまり、事業への影響を懸念して取材に口を閉ざす企業もある。巨大市場として無視できない中国でのビジネスの、メリットとリスクが改めて問い直されている。 【アンケート結果】中国に駐在員を置く企業の具体的な措置は? 事件は9月18日午前、日本人学校から約200メートルの場所で発生。母親と歩いていた男児が中国人の男に刃物で刺され、19日未明に亡くなった。6月にも江蘇省蘇州市で日本人母子らが切り付けられる事件が起きている。 帝国データバンクによると、中国には約1万3千社の日本企業が進出している。事件を受け、パナソニックホールディングス(HD)は9月19日、中国駐在員と家族に対する「状況に応じた会社負担による一時帰国の支援」を発表。カウンセリング窓口の設置や柔軟な勤務体制などの対応も行う。クボタも家族の帰国を支援し、実際に帰国した例もあるという。 一方、男児刺殺事件があった9月18日は、昭和6年に満州事変の発端となった柳条湖事件の日だった。三菱電機は社員にメールを送り、12年に日本軍の「南京大虐殺」があったと中国政府が主張する12月13日への警戒を促した。在中国日本大使館はサイト上で公開している「安全の手引き」でこれらの記念日を挙げ、対日感情に注意が必要と呼びかける。 過去には、平成24年に日本政府による尖閣諸島(沖縄県石垣市)の国有化に抗議する反日デモが暴徒化し、トヨタ自動車などの販売店やパナソニックなどの工場が被害を受けた。昨年3月には、アステラス製薬の邦人男性社員が中国当局にスパイ容疑で拘束され、その後起訴されている。同年7月にはスパイ行為の定義を拡大した改正反スパイ法が施行されている。 ただ、具体的な措置をとる企業はわずかだ。東京商工リサーチが今月実施したアンケートによると、中国に駐在員を置く企業の約83%が注意喚起を行う一方、新規での駐在停止は約1・8%、駐在員家族に帰国を促したのは約2・7%にとどまった。駐在員本人を帰国させた企業はなかった。 ある機械メーカーの担当者は「中国事業に影響があるので、何らかの対応を取っているかどうかも言えない」と声を潜める。中国では日本企業による脱中国などの動向が伝わると交流サイト(SNS)などで〝炎上〟し、不買運動につながることもあるため、目立つ対応は取りづらい事情もあるようだ。
近畿大経営学部の勝田英紀教授(海外貿易)は「中国ビジネスのリスクを企業が認識し、事業縮小などの検討をする必要がある。子供の命を守るため、まずは家族の帰国支援を進めるべきだ」と話した。(桑島浩任)