なぜ、クルマはモデルチェンジごとに大きくなってしまうのか?
モデルチェンジのたびにクルマが大きくなっていくのはなぜなのか。たとえば写真のミニ。1959年にデビューしたモーリスの「ミニ・マイナー850」はこんなに小さかったんですよね。MINIをはじめトヨタ「ハイラックス」、ポルシェ「911」、フィアット「チンクエチェント」、ホンダ「シビック」、VW「ゴルフ」など名車の歴史をひもときながら、クルマが大型化せざるをえなかった理由を解説します。 【写真21枚】1959年にデビューしたモーリスの「ミニ・マイナー850」、奈良日産の「CUBE Retro Renovation」、光岡自動車の「Ryugi EX」など名車を写真で見る
細い道を通りにくいにもかかわらず、ボディが大型化する理由とは
先日、X/Twitterで「人間が大きくなった訳ではないわけで……」という投稿が多く閲覧されていました。 MINI、ハイラックス、911、チンクエチェント、シビック、カローラ、ゴルフ、7シリーズ、3シリーズ、フォードFシリーズなど、それぞれの何世代も隔てた新旧モデルが並んで撮られた画像を連続して再生する動画に、たくさんのいいねとコメントが寄せられています。 ほとんどのコメントはボディが大きくなったことを嘆き、他のコメントでは「道路幅が広がっていないので使いにくい」と付け加えられてもいます。 たしかに、ボディが大き過ぎるクルマは困りますね。細い道を通りにくいし、100円パーキングでも難儀します。
クルマ肥大化のパターンその1「順当型」
投稿に添えられた動画を見ていると、大きくなったクルマはいくつかのグループに分けられることに気付きました。 まずは、順当型です。ハイラックス、シビック、ゴルフ、3&7シリーズ、Fシリーズなど。 順当型というのは、まとまった数の固定客がいて、定期的にモデルチェンジが行なわれて、世界の時流にも添い続けているメジャーなクルマたちです。少量生産車やマニアしか相手にしないようなクルマではありません。それぞれのマーケットの大勢に向けて造られたクルマです。 ◆大型化の理由1:装置・機能の進化 この50年間でクルマには進化が連続して起きてきました。エンジンは大きく力強くクリーンになり、トランスミッションの進化によってオートマチック化も進み、楽に運転できるようになりました。エアコンが大衆車にも装備されるようにもなって、快適性も劇的に向上しました。 パワートレインやサスペンション、トランスミッションなどが電子制御されるようにもなりました。最近では、以前は存在していなかった運転支援機能も装備されるようになっています。使われる小型コンピュータの数もどんどん増えています。 あらゆる機能や性能などを向上させるためのパーツがそのために大型化し、数も増えていきました。それらを収め続けた結果が大型化の理由の一つ目です。 ◆大型化の理由その2:衝突安全性の確保 二つ目の大きな理由は、クラッシャブルボディの考え方が普及し、採用されていったことです。クルマが衝突事故を起こした際に中の乗員を守るために、ショックを吸収する構造がボディに用いられるようになりました。 以前は、ただただ頑丈にすれば良いのではと厚い鉄板で凹まないボディが造られていました。 誤った見解は今でも残っていて、「このクルマはブツかっても凹みひとつないから大丈夫だったのだろう。でも、ブツかったあのクルマはクシャクシャに潰れてしまっている。かわいそう」と誤解されていたりします。 凹みがなければ衝突のショックを吸収できずに、そのまま乗員に伝わって被害が大きくなってしまいます。クシャッとうまくツブレることによって、ショックを吸収し、乗員の被害を減らすのです。 したがって、クシャッと潰すための空間を確保していなければなりません。これがクラッシャブルボディの考え方で、昔のクルマと較べてしまうとどうしてもボディは大きくなってしまいます。 もちろん、コンピュータシミュレーションによって、最小の空間でいかに最大のクラッシャブル効果を挙げるのかが日夜、自動車メーカーでは研究開発されているわけですが、方向性は変わりません。 “高性能で大型のボディを持つクルマほど激しくクシャッとしなければならない。なぜならば、クラッシャブル構造の効果が小さなクルマよりも大きく確保できるので、大きく高性能のクルマほど、衝突事故によるお互いの被害を軽減させるために自らのボディを率先して激しく潰さなければならない”というコンパチビリティという相互扶助の考え方がメルセデス・ベンツやボルボなどを筆頭とする自動車メーカーから表明されたこともありました。 ◆EV化が進むと小型化する? 機能の増加と性能の強化およびクラッシャブルボディというこれら二つの理由は、クルマの中身が増えて、潰れるための空間確保そのもので、現代のクルマには必須のもので逃れることはできません。時代の大きな潮流です。 ただ、EV(電気自動車)の普及がもっと進めば、クルマが小さくなる余地は生まれてくるでしょう。EVはエンジン車に較べてパーツの数が数分の一と言われていますが、まだまだエンジン車ベースで造られているEVが多いので、急に小さくはなりません。 エンジン車は、まだそれぞれの小型軽量化も考慮されていますが、上記のふたつの理由から全体としてクルマが大きくなっていくことは紛れもない事実なのです。順当型は、まさしくそれを体現しています。