なぜ、クルマはモデルチェンジごとに大きくなってしまうのか?
ポストモダン型形態変化の新潮流
その後、前述のクルマ以外にもポストモダン型が少しづつ生まれてきています。 日産の「キューブ」は高く評価され、初代は国内専用でしたが2代目からは輸出もされています。あの非対称のリアウインドウはモダニズムとはまったく相容れないものですが、僕はキューブは大好きなので3代目の登場を心待ちにしています。 また、数は多くはありませんが光岡自動車のクラシック調モディファイド車も面白いですね。ヨーロッパやアメリカの昔のクルマのデザインの一部を本歌取りしたような造形はクルマ好きやマニアたちからは白眼視されていますが、長年にわたってつねに一定の支持を集め続けていることの意味は小さくないと思います。光岡の「ガリュー」に10年7万3000km乗り続けている人を取材した時に、それを強く感じました。
大型化しつつ形も変わったフィアット パンダ
少し逸れましたが、クルマの造られ方や売られ方が多様化したことがボディ肥大化の原因のひとつになっていることを確認したかったのです。 車名と内容の関係性もありますね。マーケティングや販売上の理由から、モデルチェンジの際に旧型から車名を継承する場合もあれば、そうではない場合もあります。 メーカーとディーラーはそれまでの実績以上を売ろうとするし、ユーザーも「MINI」や「911」「チンクエチェント」などといったブランドを買った満足感に浸っているわけです。 反対の例として、フィアット パンダが挙げられます。初代は1980年から2003年まで23年間も造られ続けましたが、2代目は初代と似ても似つかない背の高いSUV風デザインになってしまいました。あまりの変わりように、「これはパンダじゃない」というブーイングがファンの間から起こったほどです。 それもそのはず、2代目パンダは「ジンゴ」という名前で発売される予定の、パンダとは別のクルマだったからです。メーカーの都合で同じ名前が付けられる場合もあれば、そうではない場合もあるのです。 同じ名前でモデルチェンジして大きくなっていれば嘆かれますが、違う名前を付けられれば嘆かれることはないでしょう。人間の心理とは不思議なものです。クルマの肥大化には、現代のクルマが置かれた複雑で混沌とした状況が反映されています。 金子 浩久さん 自動車ライター 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員(BE-PAL選出)。1961年東京都生まれ。趣味は、シーカヤックとバックカントリースキー。1台のクルマを長く乗り続けている人を訪ねるインタビュールポ「10年10万kmストーリー」がライフワーク。webと雑誌連載のほか、『レクサスのジレンマ』『ユーラシア横断1万5000キロ』ほか著書多数。構成を担当した涌井清春『クラシックカー屋一代記』(集英社新書)が好評発売中。
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