なぜ、クルマはモデルチェンジごとに大きくなってしまうのか?
クルマ肥大化のパターンその2「長寿型」
次が長寿型です。ポルシェ911やMINIなどが代表しています。順当型のバリエーションのひとつですが、誕生から長い長いモデルライフと度重なるモデルチェンジを経たクルマの初期型と現行型を較べられてしまうと、その大きさの違いは一目瞭然です。言い訳できないでしょう。 ◆60年以上の歴史を誇るポルシェ911 1963年にデビューした時の911と、現行の911を、間を飛ばして並べてしまえば、その大きさの違いが可哀想なくらいに目立ってしまうのも無理はないですね。 その間には、高性能を追求し続けた結果として数限りないモデルチェンジとマイナーチェンジ、バリエーション追加などが行われ、それに伴って人々のイメージも膨らみ続けてきました。 大きな違いも、ホイールベースの延長、ボディの拡幅、さらに張り出したturboモデル追加、バンパー大型化、などがあり、「タルガ」や「カブリオ」などバリエーションが増え続けています。 ◆「形態は常に機能に従う」を体現してきたMINI(ミニ) MINIは特殊な例でしょう。1959年にイギリスのBMCが最初のミニを発表してからモデルチェンジすることなく、41年間も造り続けました。クルマとして優れていたことと特徴的な外観をしていたことと併せて、良くも悪くもそのイメージが定着し過ぎたことによって、後にブランドを取得したBMWも中身は現代のエンジニアリングによるものの、外観をクラシックミニに似せて造りました。 クラシックミニは、決して“可愛いクルマ”を造ろうとしてできたわけではありません。1950年代後半当時の最新の自動車エンジニアリングによって、“可能な限り小さなボディに最大の室内空間を実現する”ことを突き詰めて開発した結果に過ぎません。造形には、すべて工学的な意味が裏付けられていました。 アメリカの建築家、ルイス・サリバンの「形態は常に機能に従う」という有名な言葉がその後のモダニズムの指標とされてきた通りにミニはそれを体現していました。 しかし、41年間で設計や技術が大きく進化したことと共に、自動車デザインはモダニズムの観点からだけでは評価されなくなりました。マーケティングという指標の存在感が大きくなり、「形態は常に機能に従うとは限らない」クルマも生まれてくるようになりました。 もし、ミニがモダニズム的に進化したのならば、BMWが1997年に発表した3人乗りのコンセプトカー「E1」や、後に生産販売された「i3」に相当したのではないかと僕は考えています。カーボンファイバー製シャシーを持ち、後輪を駆動します。 しかし、MINIはオリジナル時代のミニに則って、フロントに積んだエンジンやモーターで前輪を駆動します。車内も、ボディサイズの割りに広くありません。ただ、MINIという名前を持ち、“ミニの後継車だ”という由来を主張し、意匠を似せることができるマーケティング上の正統性を有しています。 ミニがモダニズムの賜物ならば、MINIはポストモダニズムによって生まれてきたクルマだと言えます。 ◆バウハウス流がアイコン化したフォルクスワーゲン ビートル ポストモダニズムの観点から、他にも大きくなってしまったクルマを挙げることができます。 MINIとパターンが良く似ているのが、フォルクスワーゲンの「ニュービートル」と「ザ・ビートル」です。 1ミリの妥協もマーケティングなども織り込まずにポルシェ博士が戦前戦中に設計したタイプ1(ビートル)は、モダニズムの源流のひとつでもあるバウハウス流と表現することもできます。 フォルクスワーゲンが、生産する工場の建設も含め、国民に安価な移動手段(まさに国民車=Volkswagen)を提供するナチスによる巨大な国家プロジェクトとして始まったわけですから、マーケティングなど入り込む余地すらないわけです。 代金を毎月積み立てて数年後の満期とともにクルマと引き換えるという販売方式が、それを物語っています。積み立ては行なわれましたが、実際には1台も国民には引き渡されず、戦後に裁判になっています。少数だけ製造されたビートルは軍用車として軍隊に納入されてしまいました。 しかし、タイプ1ビートルはその素質と実力の高さゆえに世界中で長期間にわたって生産販売され続け、モデルチェンジもなされなかったためにアイコンと化しました。 そのアイコンを実車化したのが「ニュー・ビートル」で、モデルチェンジしたのが「ザ・ビートル」です。どちらも、同社のゴルフをベースとして造られているので、タイプ1ビートルとは何の技術的工学的関連性もありません。あるのは、MINIの場合と同じような似せた外観と名前、イメージだけです。 ◆機能美に喧嘩を売るフィアット チンクエチェント フィアットのチンクエチェントも同じパターンです。 MINIはミニの前輪駆動を引き継いでいます。しかし、ニュービートルもチンクエチェントも元が空冷エンジンをリアに搭載し、後輪を駆動していましたが、どちらも水冷エンジンで前輪を駆動しています。技術的工学的な関連性はまったくありません。形態を機能に従わさせていないのです。モダニズムに喧嘩を売っています。 したがって、MINIもニュービートルもチンクエチェントもオリジナルよりもだいぶ肥大化しています。