自民党総裁選での経済政策論争⑦:規制改革
新政権では期待できない大胆な規制改革
河野氏もライドシェアの全面解禁を支持している。河野氏はそれ以外にも規制改革案を提示している。例えば、マイナンバーカード所有者の個人向けサイト「マイナポータル」を活用して、国民の所得データを把握しやすくする。所得に関するデータを国が一元的に管理することを前提に、必要な人に対象を絞って物資や補助金などを支給する「デジタルセーフティーネット」をつくる。 また、「移行期間を経たうえで年末調整を廃止して、すべての国民に確定申告してもらう」とした。これは、米国が実施している「記入済み申告制度」をモデルにしているとみられる。当局が納税者の所得、各種控除や税還付に関する正確な情報を把握し、それをもとに徴税額を試算して納税者一人ひとりに通知する。その内容に間違いがなければ、納税者がオンライン上で承認して申告手続きは簡単に終了する、というものだ。 こうした施策は規制改革と言えるが、仮にそれらが実施されても、新規参入を通じて競争条件が高まり、価格の低下と消費者の利便性が高まる、といった大きな経済効果を生み出す訳ではないだろう。長らく議論されてきた規制緩和、規制改革とはやや異質なものだ。 岩盤と言われた医療や農業などの分野で果敢に規制改革を掲げる候補者は、今のところいない。その結果、新政権のもとでも、規制改革が大きく前進することは期待できないだろう(コラム「自民党総裁選:『小石河』有力3候補の経済政策」、2024年9月9日)。 (参考資料) 「自民党総裁選「金融・成長戦略」発言を追う」、2024年9月21日、日本経済新聞電子版 「総裁候補、規制改革に濃淡 推進派河野・小泉氏の真意は-編集委員 大林 尚」、2024年9月13日、日本経済新聞電子版 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英