現在の「絹ごし豆腐」は偽物ばかり? 絹で濾してないのに! その原因はなんと「軍用機」に関係していた
戦後主流になった硫酸カルシウム豆腐
敗戦によりジュラルミン生産が縮小し、にがりが使えるようになっても、豆腐店は硫酸カルシウムを使い続けた。現在も町中の小さな豆腐店では、硫酸カルシウムか、硫酸カルシウムににがりを混ぜた凝固剤を使うところが多い。 にがりを使わなくなった理由はふたつある。 ひとつ目の理由は、硫酸カルシウム豆腐のほうが作り方が簡単なこと。筆者(近代食文化研究会、食文化史研究家)の近所の豆腐店にきいたところ、にがりを使う場合、豆乳の微妙な温度管理が必要なので、難易度が高いそうだ。 ふたつ目の理由は、豆腐を安く作ることができること。水分を絞り出さずに固まるので、水分量の多い豆腐を作ることができる(同じ量の大豆から多くの豆腐を生産することができる)のだ。 戦中戦後の食糧難の時代には、悪くいえば 「水増し」 できる硫酸カルシウム豆腐の存在はありがたいものであったろう。 こうした理由から、豆腐店の凝固剤はにがりに回帰することなく、硫酸カルシウムを使った豆腐が主流となっていったのである。
ニセ絹ごし豆腐の誕生
とはいえ、ゼリー状に固めた水分の多い豆腐は、木綿豆腐として売るには柔らかすぎた。なので硫酸カルシウムを使うようになっても、木綿豆腐は木箱と木綿袋に入れて水分を絞る製法が主流となる。 一方、ゼリー状に固めた柔らかい豆腐は、その表面の滑らかさ、豆腐の柔らかさが戦前の高級な絹ごし豆腐に似ていた。 なので絹布で濾していないにも関わらず、戦前からおなじみの絹ごし豆腐という名で、硫酸カルシウム豆腐を販売したのである。これが現在売られている、絹で濾さないニセ絹ごし豆腐だ。 「絹ごし豆腐は豆乳をゲル状に固めた豆腐で、豆乳の中の水分をそのまま型箱に入れ擬固剤で固めたものである。従って、絹ごし豆腐は大豆の栄養分を木綿豆腐のように湯と共に流し出すことがないので非常に栄養価も高く、健民豆腐などと呼ばれることもあった」(阿部孤柳 辻重光『とうふの本』) ちなみに現在は、 「にがりを使ってゼリー状に固めた」 工場製のニセ絹ごし豆腐も存在する。これは特殊な装置を使った豆腐で、にがりをジェットノズルから噴出させ瞬間的に豆乳とかき混ぜると、上澄み液と汲み豆腐に分離せず、ゼリー状に固まるのである。
近代食文化研究会(食文化史研究家)