袴田さん58年訴えた「無罪」なるか(上) 9月26日判決、長年死刑におびえ拘禁反応今も
静岡地裁は2014年、開示された証拠などに基づいて実施した5点の衣類に関する弁護団の鑑定を支持して再審開始を認め、袴田さんは逮捕から48年ぶりに釈放された。 しかし検察は、再審開始決定に対して不服申し立てすることができる。実際に検察は即時抗告し、「再審を始めるかどうか」についてさらに争われることになった。 結論が出たのは2023年3月。東京高裁が、5点の衣類について捜査機関側が捏造した可能性が極めて高いと指摘し、ようやく再審が開かれることが確定した。静岡地裁の再審開始決定から10年近く、最初の再審請求からは42年もたっていた。 ▽みそ漬け衣類に残った赤み争点に、検察は再び死刑求刑 再審公判は2023年10月から、静岡地裁で計15回開かれた。再審請求段階と同様、犯行着衣とされるみそ製造会社のタンクから見つかった「5点の衣類」に残る血痕の赤みが主な争点になった。検察は袴田さんの有罪を改めて主張し、死刑を求刑。それに対し、弁護側は「冤罪の経緯解明につながる審理を期待したが、検察は蒸し返しばかり」と非難した。
長期間の拘束による影響で幻覚や妄想などが生じる「拘禁症状」が残る袴田さんの出廷は免除され、姉ひで子さん(91)が弁護団と共に法廷に座った。約30席の傍聴席を求め、毎回多くの人が地裁前に並んだ。事件は裁判員裁判の対象外だが、検察は市民から選ばれた裁判員に説明するのと同じように審理でスライドを多用した。 「5点の衣類」は1年以上みそに漬かりながら、赤みが鮮明に残っていた。これをどうとらえるか。再審開始を確定させた2023年3月の東京高裁決定は、「赤みは残らない」とした弁護側鑑定の信用性を認め、捜査機関側が捏造した可能性を指摘した。 これに対し検察側は再審公判で、専門家7人の「共同鑑定書」を新たに提出し「赤みが残る可能性が否定できない」と訴えた。 今年3月には検察、弁護側の証人計5人が法廷に並び立ち、質問に答える〝対質尋問〟が実施された。その中では、検察側の専門家の1人が、事件当時の環境の再現は難しいとして、弁護側だけでなく、検察の実験方法に苦言を呈す場面もあった。