袴田さん58年訴えた「無罪」なるか(上) 9月26日判決、長年死刑におびえ拘禁反応今も
再審や再審請求は、無実証明につながる可能性があり、注目されることも多い。だが、その進め方は担当裁判官に委ねられているのが実情だ。そのため、袴田さんに限らず長びく事件は後を絶たず、手続き中に当事者が亡くなるケースもある。このような状況を変えようと2024年3月、再審に関する法整備を求める超党派の国会議員連盟が発足した。小川弁護士らは不適切な捜査や証拠捏造を断じるとともに、こうした法整備の動きを後押しする判決を期待する。 ▽証拠捏造、見つけた支援者は 「裁判官は証拠を謙虚に、忠実に見て判断してほしい。おのずと巌さんは無罪になるはず」。袴田さんの支援者で、捜査機関による証拠捏造の可能性を見つけた藤原よし江さん(65)は判決を前にこう語る。 昨年10月から静岡地裁で開かれた再審公判を3回傍聴した。袴田さんが犯人だとする検察の主張は破綻しており、判決で冤罪が晴れるとの思いを強くしている。
藤原さんは2013年春、友人に誘われて支援を始めた。袴田さんの獄中書簡集に記された、長期拘束にめげず闘う言葉に心動かされ、活動にのめり込んだ。その一貫として1968年9月の一審静岡地裁判決以降全ての判決書などを入手。読み進めるうち、袴田さんが事件で負ったとされた右すねの「比較的新しい傷」に疑問を抱いた。 逮捕当日の留置場などの記録に記載がないのに、約3週間後になって検査で最大3・5センチの傷が見つかった。傷が記録された日、袴田さんは厳しい取り調べを受け、犯人だと「自白」して「被害者に蹴られた」と供述していた。検察側は、袴田さんが事件当時身につけていたというズボンに付いた傷と、すねの傷が一致すると主張し、控訴審判決で袴田さんの有罪を裏付ける証拠と認定された。 「絶対におかしい」。藤原さんは矛盾を弁護団に報告。再審開始を認めた2023年3月の東京高裁決定は、弁護側の指摘に基づき「傷は逮捕後に生じ、それに沿うよう自白やズボンの傷が作られたとの疑いを生じさせる」と結論付けた。
藤原さんは傍聴した再審公判で、袴田さんが有罪だとする立証を続ける検察官の姿に「相反することを都合よく主張しているだけ」と感じた。 袴田さんが2014年に釈放されて以降、散歩に付き添い、心の中で伝えている。「無罪だと分かっている。もう頑張らなくて大丈夫だよ」 死刑事件で再審無罪となれば戦後5例目だ。袴田さんは再審公判中も、支援者と散歩するなど穏やかな暮らしを続けた。長年支えてきたひで子さんは、今年7月の取材に「巌は無罪だからね。助けにゃいかん」と語った。