生活保護「家族に“扶養照会”しないと受けられない」は“ウソ”…行政に課せられた“正しい運用ルール”と「どうしても知られたくない場合」の対処法【行政書士解説】
たびたび問題になる「扶養照会の強行」
扶養照会について、厚生労働省は、「20年間音信不通の場合」には親族に照会しなくていいとされていた運用を「10年程度」と改めるなど、柔軟に運用すべきとの通知(2021年2月26日付)を自治体向けに出しました。 生活保護制度運用の法令上、それ以前は「親族からDV や虐待を受けていた」「20年以上連絡を取っていなかった」など、限られた場合にのみ、扶養照会はしなくてよいとされていたのです。つまり、福祉事務所の職員は、「三権分立」に基づき法にのっとった仕事をしなければならず、親族からの暴力など差し迫る危険がなく、かつ、直近20年間に連絡を取っている親族については、扶養照会をするというのが、自らがすべき仕事、職責でした。 しかし現実には、生活保護を申請する人には個別にさまざまな配慮すべき事情があります。そこで、そういった現実に即し、扶養照会の要件が緩和されたのです。 とはいえ、この扶養照会緩和の通達が出された後にも、「10年以内に連絡を取っていたのだから、本人が拒絶しても、扶養照会します」と強行しようとした自治体のケースが報道され、話題になりました。 このケースは、扶養照会を実施しないことを書面で求める申出書を生活保護申請時に提出しようとしたところ、窓口担当者から「申出書を出すなら、生活保護申請手続きは進められない」と言われたというものです。 やむなく扶養照会を拒む申出書の提出を断念したところ、本人の意に反して扶養照会が強行されてしまった、というものです。
「親族への扶養照会をしないでほしい」という“理由”を明記した申請書を提出
役所の職員から「親族への扶養照会は必要です」などと言われた場合、多くの人は、言葉通りに受け止めるしか術(すべ)がないと思い込んでしまうかもしれません。 しかし、福祉事務所もその事情をくんで臨機応変に対応してくれることがあります。 たとえば、生活保護申請書を作成するとき、依頼者の希望で「親族への扶養照会をしないでほしい」という要請を記載することは多々あります。 実際そうした理由を明記した申請書を提出し、受理されたケースで、扶養照会が申請者の意に反して勝手になされたことは、私の知る限り1つもありません。 申請書を作成するときは、「扶養照会を拒絶する申出書」ではなく、申請書そのものに扶養照会を拒む明確な文言を、理由とともに書き入れます。 以下は、その一例です。 「扶養親族である姉には心配をかけたくないので、生活保護申請のことを絶対に知られたくありません。 家族の関係性が壊れないように、また私の最低生活が守られるように、私の意に反して扶養照会をすることは、絶対にやめてください。 姉の個人情報は一切開示できませんし、私の個人情報も姉に絶対に開示しないでください。行政から姉に文書を送るようなことも、絶対にしないでください」 さらに、以下のように、扶養照会をする理由・必要性に関する説明を書面で求める旨の文言を明記することも多いです。 「上記の扶養照会を拒否する意思表示があるにもかかわらず、扶養照会を強行しなければ、私が生活保護を受けられないということが万が一にもあるのでしたら、書面にて根拠法令の条文と共に理由を説明してください。 勝手に扶養照会の通知を送付してしまった、では取り返しがつかないので、くれぐれもそのようなことのないようにお願いします」