<ハリスも身内に足を引っ張られる?>敵に投票、離党… 民主党で内部対立が頻発する理由とは
シネマはなぜ、離党したのか
今日、党内での最大の対立は穏健派と左派の間に見られている。20年大統領選挙で左派がバイデンにさまざまな圧力をかけた結果、バイデンは左派寄りの立場をとるようになった。ただバイデンは、場合によっては共和党との協力も必要だと考える現実的な政治家であるため、左派の意向に完全に従っているわけではない。 バイデン政権と民主党多数議会は米国救済計画法、インフラ投資法、インフレ抑制法という大型法案を通し、コロナ対策、インフラ投資、気候変動という3つの主要公約の法制化に成功した。だが、左派の圧力を受けて公約とした学生ローンの返済免除政策は広汎な支持を集めるのが困難で、連邦最高裁判所が違憲判決を出す可能性も考えられたため、法律としてではなく大統領令での実施を目指した。そして、実際にこの返済免除政策には違憲判決が出されたのである。 そして、党内で左派が大きな影響力を持っていることに不満を持つ人がいる。例えば、アリゾナ州選出のキルステン・シネマ上院議員はインフラ投資法、インフレ抑制法の審議過程で党の方針に疑問を呈し、民主党から離脱して無所属となった。 アリゾナ州は08年大統領選挙で共和党候補となったジョン・マケインが長らく上院の議席を有していたことから分かるように、保守的な傾向も強い激戦州である。そのような州で民主党候補が上院議員選挙で勝利するには左派的なスタンスを取るわけにはいかないことを党指導部は理解しているが、リベラルな大都市に居住している民主党支持者の多くはシネマを批判していた。
民主党の抱える大きな問題は、リベラルな大都市部に居住する中核的支持者のみに依拠しては選挙に勝てないため、穏健な立場を取る人々の支持も確保せねばならないにも関わらず、そのような人々に対する寛容度が低い人が多く存在することである。
大統領選へ気がかりなノーラベルズの存在
24年大統領選挙では、バイデンとハリスが正副大統領候補となって再選を目指すことがほぼ確実視されている。今日、バイデンへの対抗馬としてある程度名前が知られている人物は反ワクチン活動家のロバート・ケネディJr.だけである。 そして各種世論調査でケネディが25%ほどの支持を集めているため、ケネディが勝利するという番狂わせが起こる可能性があると指摘する論者もいる。だが、ケネディを支持するとしている人の多くは、バイデンに対する不満があることを示すために、バイデン以外の候補だというだけの理由でケネディへの支持を表明している可能性が高い。ケネディのような左派的立場に共感するという左派のマグマが存在するのは事実だとしても、それを過大評価するのは妥当でない。 むしろ民主党にとってより大きな脅威となるのは、マンチンの動向である。マンチンは先ほど指摘したシネマと並んで民主党が左派的傾向を強めることに反発を示してきた。そして、今日の米国において、民主党の左派的スタンスを嫌う一方で、トランプが大統領となるのも好まない人々が第三の政党を結成し、マンチンに大統領選挙への出馬を促している。このような動きは、ノーラベルズと呼ばれている。 米国では長らく二大政党政治が定着しており、二大政党に有利な制度が多く存在するため、第三の政党が勝利するとは考えにくい。ただし世論調査では二大政党以外の政党が必要だと回答する人々の割合が歴史的に最も高くなっている。このような中で、マンチンらを中心に民主党を割る形で第三政党結成の動きが出てくると、結果的に民主党の足が引っ張られる可能性もある。 24年大統領選挙は、バイデン対トランプとなる可能性が高いと指摘されているが、このような第三党結成の動きが選挙結果を左右する可能性も存在しているのである。
西山隆行