唯一無二の表現力、20世紀美術に衝撃を与えた孤高の画家「デ・キリコ展」は見逃せない! 10年ぶりの大回顧展、東京都美術館で開幕
■■特権的モチーフだった人物像を、無機物のマヌカンに置き換えた 「『マヌカン』(=マネキン)は、デ・キリコを特徴づけるモチーフのひとつです。西洋絵画において人物像は特権的な地位を与えられ、他のモチーフとは比べることができないほど重要なものと位置づけられていました。それをデ・キリコはマヌカンに置き換え、一種の“モノ”として同列に扱いました。
マヌカンが登場したのは、第一次世界大戦が勃発した頃です。戦争を起こしてしまう人間の理性のなさや、暴力的なものを前にした人間の無力さを表していると言われています」(髙城さん)。 この時代の「形而上絵画」の作品は世界中に散らばって所蔵されているため、多くの画家に衝撃を与えた1910年代の作品《予言者》や、本展のポスターにもなっている《形而上的なミューズたち》などをまとめて見られるのは、とても貴重な機会なのだとか。
ちなみにマヌカンを描き続けた後年の作品では、それまで無機質だったマヌカンが徐々に人間化していくという面白い流れもみてとれます。 ■■伝統的な絵画への回帰と「新形而上絵画」 古典的な絵画を描いた作品を集めた第3章では、ティッツィアーノやラファエロといったルネッサンス様式の作品や、17世紀のルーベンスやベラスケスなどのバロック様式を研究して描いた《風景の中で水浴する女たちと赤い布》、そして印象派の画家ルノワールを参考にして描いた《横たわって水浴する女(アルクメネの休息)》などの作品が登場。“古典的”とひとことで言っても、様式がこれほど変わるのが、デ・キリコならでは。
そして1968年から晩年にかけての10年、デ・キリコの最終段階は、それまでに描いてきた絵画や挿絵やモチーフを自由に組み替え、新しい絵画を描いた「新形而上絵画」。初期の「形而上絵画」の作品は色も暗めでどこか重苦しい憂鬱な雰囲気が漂っていますが、こちらは画面自体が明るくなり、画家が楽しみながら描いていることが伺えるように、軽やかで遊び心に満ちたものに。