対ロ経済制裁の効果は? ロシア経済で今起こっていること
ウクライナ情勢で投資環境が悪化
最近は原油価格も下がり気味です。来年のロシア財政を逼迫しないのでしょうか。9月末には来年度予算案が議会に上程されました。これを見ると逼迫どころか、強気の財政運営が見てとれます。GDP成長率が1%程度しか見込まれていないのに、歳入は5.9%、歳出は11.1%増(GDP0.6%分の財政赤字)を見込んでいるからです。 ルーブルの価値が年初来23%も落ちたため、エネルギー産品輸出収入がルーブル表示では急上昇し、本年1-8月にはGDPの2%分(約4兆円)に相当する歳入超過があったと、プーチン大統領は述べています。来年もルーブル下落効果によって約2.7兆円分の国庫歳入増を見込んでいます。これによって年金・公務員給与引き上げ、軍備の近代化、インフラの建設などを同時に実行しようとしているのです。 資本がロシアを嫌って流出、それによってルーブル価値が下落すると国庫歳入が増える、それを年金・給与引き上げに回す――これでは、ルーブル下落が引き起こすインフレと、年金・給与引き上げのイタチゴッコになるでしょう。制裁措置そのものと言うよりも、ウクライナ情勢によるロシアでの投資環境の悪化がこのような状況をもたらしていると言えるでしょう。
ロシア経済は大崩れするのか?
それでは、ロシア経済は今後、大崩れするのでしょうか。ロシアは原油・天然ガスへの依存がひどいとは言え、人口1億4000万、GDPは世界8位の2兆ドル強を持つ大国です。そしてその経済を支えている原油、天然ガスの市況は現在弱含みとは言え、底堅いものがあります。サウジ・アラビアは現在、油価下落を容認し、それによって米国のシェール・オイルの採算割れを狙っているようですが、1バレルあたり90ドル以下になれば、生産調整を始めて価格を下支えするものと思われます。85ドル以下になると、サウジ・アラビア政府の予算が成り立たなくなると見られるからです。 加えてロシアは5000億ドルの外貨準備、1500億ドル強分の石油・ガス税収積み立て基金を持っています。企業は本年、1300億ドル以上の対外債務支払いを抱えていますが、他方1500億ドルの外貨を持っています。従って、ロシア経済が今すぐ大崩れする可能性は低いでしょう。 ただ、原油・天然ガスに依存したままでは、ロシア経済の未来はありません。プーチン大統領は最近のスピーチで、ロシア経済の構造改革、特に「製造業」増強の必要性を強調しています。しかし、食品・繊維など軽工業は輸入代替で伸びるでしょうが、自動車・家電等の製造業は外国からの直接投資に依存せざるを得ません。それには限界があるので、結局「製造業」の名の下に軍需部門の生産を伸ばすことになると見込まれます。 (河東哲夫/Japan and World Trends代表)