しりあがり寿さんと河野真弓さんが語り合う、看板の面白さ。
しりあがり やっぱり由美かおるの蚊取り線香の看板でしょう。昔はそこらじゅうにあって、たいてい錆びてた。当時は蚊取り線香の看板だなんて気づいてなくて、由美かおるの太ももしか目に入ってなかったかも(笑)。河野さんは?
河野 私は海外の古い看板が好きなんです。イギリスの昔からある床屋さんの看板とか。ルート66の標識も格好いいなと思います。どこか懐かしいような、飽きない良さがあるんですよね。 しりあがり 確かに、ああいう看板はどんなに時代が変わっても好きな人は必ずいますよね。 河野 看板に奇抜さはいらないと思うんです。街になじんでいるんだけど、格好良さもあるものが好きです。
しりあがり 主役はあくまでもお店とかお客さんで、看板ではないものね。 河野 すごく目立つわけではないけど、あると雰囲気が良くなる。そういう看板を私も作っていきたいです。 しりあがり それはすごく大事だと思いますね。そういう看板が増えていくと、皆の住んでいる場所とか暮らしが豊かになっていくんじゃないかな。
デジタルサイネージは便利? それとも寂しい?
しりあがり 僕は漫画家になる前はキリンビールの社員で、そこで広告を作っていたんです。 河野 そうなんですね。 しりあがり その時代でよく覚えているのが「メッツ」っていう炭酸飲料の広告。僕の前の担当者が手がけたものなんだけど、テレビのCMで看板からメッツの缶がごろんって落ちるんだよね。で、実際の街中にもテレビと同じ看板があったんです。あれは看板を効果的に使った広告だったなと思います。
河野 看板って、時代の雰囲気も感じますよね。最近は電子看板、いわゆるデジタルサイネージも増えてますけれど、あれについてはどう思います? しりあがり 僕にとっては映画『ブレードランナー』の冒頭シーンに重なっていて、寂しさを感じちゃうんだよね。もう40年くらい前の映画だけど、滅んでいく街の中で、デジタルサイネージだけがキラキラしてるっていう。だから今、街中でデジタルサイネージを見ても暗黒というかディストピアのイメージしか浮かんでこない。そういう世界が好きだからかもしれないけど。 河野 私はデジタルサイネージって嫌いじゃないんですよね。設置する側からしたら印刷して貼ったり剥がしたりっていう手間も不要だし、便利だなと思います。あと、今後はもっとIT化が進みそう。たとえば若い人が前に立ったらこの広告、年配の人が前に立ったらこの広告というように、前に立つ人に応じて表示する広告を切り替えるとか。そうやって、より多くの人が楽しめるものになるんじゃないかと。