おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第29巻編】~ブロッケンJr.の魂の煌めき、仲間の盾となりクランクアップ~
ブロッケンJr.最後の美しさの理由とは? そうしてゼブラが敗れたところで、観衆の注目はもうひとつの準決勝、フェニックスとソルジャー両軍の闘いへ。しかもなんとその最終決戦は前代未聞、空中に浮かぶ高重力立方体リングにて、3対3の6人タッグマッチで行なわれることになりました。一体どんな試合になるのやら...と思っていたら、ゴングから2ページ後にいきなり出たのがツープラトンならぬスリープラトン!? この闘いの参加者6人すべてが絡む超大技、その名も超人デコレーション・ツリーです! そもそも超人技には、肉体と肉体のパズルのような芸術性の高いものが多いんですが、それもここまで極まってきたかと。まさに6人タッグの真骨頂をいきなり見せつけられ、のっけからこの一戦の凄まじさを予感せずにはいられません。 そして、そんな高等技を放つ敵側に現れた新たなる大物が、超人の可能性ーーその無限の広がりを感じさせる、面白い造形のプリズマン。しかも使うのは浴びた者を一瞬で灰にする"殺超人光線"レインボー・シャワーです。こんなのどうやって相手にするんだというところで立ちはだかるのがブロッケンJr.なんですが、その対抗案がまたスゴい。 超人に有害な光線も人間には効かない、という理屈でなんとブロッケンは超人であることを捨て、人間になってしまいました! あとのことなど考えず、この闘いにすべてをかけるいかにも彼らしい決断ですが、このシーンを見るたびに僕はなんとも切ない気持ちになるんです。 それは『キン肉マン』を読み始めた時から僕が、このキン肉星王位争奪編こそが当時の『キン肉マン』最終シリーズであることを知っていたから。つまりブロッケンはここで退場してしまったら、もう最後まで出てくることはありません。死んでも生き返る、とか絶対にない、本当のお別れです。しかし、それでもこの一瞬にかける彼の決意、その美しさ。これを魂の煌(きら)めきとでも言うんでしょうか。 人間になってレインボー・シャワーを浴びながら仲間の盾となる彼の姿は、本作屈指の美しい名場面だと僕は心から思います。そしてその予感通り、ブロッケンは最後の命の炎を燃やしてプリズマンを道連れに退場。本作からクランクアップしていきました。そんな彼の見せたすべてのシーンが、僕のなかではこの巻のハイライトです。 そんな彼の犠牲を前にして僕ら同様、涙を浮かべるソルジャー隊長。その熱い涙から、彼がやはりただの残虐超人ではないことが示唆されます。折しもキン肉真弓が語るキン肉王家の隠された過去。もしやこのソルジャーは、王家に関わる重要人物なのではないか......。そんな気になる疑念も持ち上がったところで、この大激闘は次巻へと続きます。 キン肉マン4コマ ●こんな見どころにも注目! たまたま会場内に迷い込んで飛んできた鳩が、パルテノンの呪いの技"人体化石封じ"の餌食に!? とてもかわいそうなシーンですが、思い起こせばミキサー大帝のパワー分離機の最初の餌食となってしまった小犬や、後にマンモスマンのパワフル・ノーズで天井にぶつけられてしまうことになる幸運の青い鳥"ブルー・サンダー"などなど、本作には得てして何も知らず超人に近寄ってきた動物が技の犠牲になってしまうと同時に、その技の秘密を暴く手掛かりになる、という現象が多発しがちです。よって皆さん、動物愛護の観点からも、超人レスリングの会場に動物は持ち込まないよう気をつけてくださいね! ●おぎぬまX1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン! ミステリ小説『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『爆ぜる怪人 殺人鬼はご当地ヒーロー』(宝島社)も好評発売中 漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社