『君が心をくれたから』『西園寺さん』にみる2024年の松本若菜

　こういった一連の流れを目にしていて、松本の演技の転換の秀逸さに唸らずにはいられない。終始ピリついている田中の表情も戦慄を覚えるくらい素晴らしいのだが、物語の展開の中で見る見る表情というものが消えていく松本の演技には圧倒された。 　表情は消えていくが、結果としてそこにあるのは“無表情”ではない。彼女の顔の上に出力されていた情報が大きく減少しただけで、ゼロになったわけではない。むしろ、マイナス値にまで減少している。その変化の過程には、苦悩、揺れ、そして心が粟立っているさまが見て取れた。これから美羽は“悪女”になっていくというのだから、私たちが圧倒される瞬間は何度も訪れそうである。 　2024年の松本は『君が心をくれたから』（フジテレビ系）に、はじめてプライムタイムのドラマで主演を務めた『西園寺さんは家事をしない』（TBS系）、さらに今回の『わたしの宝物』と、大きく異なる役どころで視聴者を魅了し続けている。映画ファンからすれば前から知られた存在だっただろうが、世の多くの人々は『やんごとなき一族』（2022年／フジテレビ系）で彼女の存在を認識したのではないだろうか。あれからちょうど2年半ーー奇しくも『やんごとなき一族』と『わたしの宝物』は同じ番組枠だ。また新たな“松本劇場”がここに誕生する予感に満ちている。