モーテック制御のポルシェ「959」が2.7億円で落札! 走行距離10万キロオーバーの改造車でも価値に揺らぎなし…なぜ予想より高かった?
アメリカで特別なヒストリーを辿った個体
このほどRMサザビーズ「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたのは、この魅力的な自動車愛好家の物語に登場する、特別な959の1台である。 1988年3月17日にツッフェンハウゼン工場にて完成し、西独ボンのディーラー「MAS(Meyer Automobile Service)KG」社に新車として販売。その3カ月後、この959は西海岸の著名なアートコレクターであり、心理療法士で慈善家、そしてポルシェ愛好家でもあったノーマン・クレメント・ストーン博士へと引き渡された。 残されている資料によると、ストーン博士は西ドイツのツーリストパスを使ってこのクルマの引き渡しに立ち会い、その後1988年6月27日にラルフ・ローレンの959と一緒にニューヨーク港に輸入された。両車はその後、アメリスペック社に保証金とともに送られ、アメリカの排ガステスト用に改造されたという。 テストに成功したあと、ストーン博士は東海岸コネチカット州のアメリスペック社から959を引き取り、ポルシェのスペシャリストであるカリフォルニア州サンタアナの「アンディアル(Andial)」社から貸与された同州のディーラープレートを使用して、サンフランシスコの自宅まで横断ドライブを敢行した。さらに驚くべきことに、博士は1989年1月までに、この959を9000マイル(約1万4500km)近く走らせたという。 その後25年間にわたり、博士はアンディアル社と、同じくカリフォルニア州スコッツバレーの「カネパデザイン(Canepa Design)」の両社に委ね、このクルマを熱心にメンテナンスした。 1989年まで遡る膨大なサービスインボイスを見れば、この特別なポルシェがいかに楽しまれ、大切にされていたかは疑いようがない。2001年8月、ストーン博士は愛車959の純正パーツが不足することを懸念し、アンディアル社にポルシェへ直接4万5000ドル分のスペアパーツを注文させている。 959は狭いながらもリアシートがあり、「正しく整備されていれば」という条件付きながら、非常に使い勝手の良いクルマとしてエンスージアストたちの間で知られている。だから、現在では当時のほかのスーパーカーと比べても遜色のない走行距離を記録している個体も決して少なくはない。ポルシェのCEOである故フェルディナント・ピエヒや、WRC選手権を制したアウディ・グループBのワークスドライバー、ヴァルター・ロール氏も、この素晴らしいスーパーカーを日常的にドライブしていたといわれている。 実際、ストーン博士もこの959を15年以上にわたって日常の足として愛用し、2009年にサスペンションのオーバーホールとメカニカル診断のために「カネパ」に委託した際には、オドメーターは6万8000マイル(約10万9000km)以上を示していた。