内山昂輝「どう変化をつけるか」意識したキャラの二面性:インタビュー
声優の内山昂輝が、5月24日に後章が公開される浅野いにお氏原作の映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下、デデデデ)に出演。主人公の門出と凰蘭(通称・おんたん)の同級生、小比類巻健一を演じる。本作は突如宇宙から巨大な母艦が襲来し、未曽有の事態を引き起こすも、やがてその恐怖や戦慄も日常の一部と化した「終わらなかった世界」を描く。そこで思春期を過ごす女子高生を中心に、不安定で不確実な世界を綴った作品。3月22日に前章が公開され、門出とおんたん役として、シンガーソングライターの「幾田りら」と、タレント・モデルとマルチに活躍する「あの」がW主演を務め話題となった本作。5月24日に後章の公開を控え、いよいよ物語も佳境を迎える。インタビューでは、「ハイキュー!!」月島蛍、『キングダム ハーツ』ロクサスとヴェントゥス、『呪術廻戦』の狗巻棘を演じた内山昂輝に、物語の中で大きな変化を迎えていく小比類巻健一をどう捉え、演じたのかを聞くとともに、いま声優として追求していることについて話を聞いた。(取材・撮影=村上順一) 【写真】内山昂輝、撮り下ろしカット ■ギャップをどう作るかが課題だった ――原作、脚本を読まれてどのようなことを感じましたか。 とても複雑な物語だなと感じました。女子高生たちの平和な日常を描く側面もありつつ、そのすぐ横には世界の破滅をもたらすかもしれない宇宙から来た母艦が空に浮かんでいる。その中で日常は進んでいくのですが、中盤以降にはあっと驚く展開もあるし、練られた世界観設定と物語展開が用意されているので、いろいろな楽しみ方ができる作品です。そして、原作と真正面から向き合ってアニメ化しようとしているんだなと感じました。 ――出演が決まった時の心境はいかがでしたか。 この原作をアニメ化するということは、チャレンジングなプロジェクトだと感じたので、その仲間に入れていただけるというのがとても嬉しかったです。僕が演じる小比類巻健一は原作を読んでみると大きな変化を迎えるキャラクターだったので、前半部分、高校生時代の小比類巻と、高校を卒業して侵略者狩りに向かっていく小比類巻という2つの面があって、その両方を準備する必要があるなと思い、そこの変化をどうつけていこうか考えました。 ――具体的に気をつけたところは? 髪型など見た目が変わるので、それに応じた表現をしなければと思いました。高校時代の小比類巻はいろいろなものに影響されがちで、まだ自分というものを確立していないところがあります。それは危うさもありますが、年齢相応と言ってもいい部分だと思いました。その年代特有の可愛らしさみたいなものを、高校時代では表現できればいいなと思いましたし、多感な時期ならではの表現が必要だと思いました。 小比類巻が闇落ちした後は、それが正しいかどうかは別として、自分が信じるものを決めて、そこに向けてひたすら突き進んでいくというキャラクター像が必要だなと感じたので、ギャップをどう作るかが課題でした。収録の際、変化後の小比類巻を初めてテストでやってみたら、闇のキャラクターになりすぎているということになり、もう少し高校生時代の雰囲気に戻そうとか、グラデーションをいろいろ試しながら、スタジオで話し合って新たなキャラクター像を作っていきました。 ――小比類巻に共感できる部分はありましたか。 高校生の頃は色々なものに影響を受けやすい年代だと思いますし、自分が好きなもの、たとえばミュージシャンのインタビュー記事などを読んで、そのまま受け取って絶対視してしまう瞬間もあると思いますし、共感できるところもあるなと思いました。 ――内山さんがミュージシャンなどの発言で影響を受けたものはありましたか。 音楽雑誌を読んでいた記憶はあるんですけど、具体的な言説というのは思い出せないんですよね。きっと何かしら受け取ってはいたと思います。僕はそういう情報をなるほどと思いつつ、素通りしていった感じがしていて、あまり人から影響を受けずにやってきた感覚はあります。 ――影響を受けてこなかったというところで、小比類巻の感覚を掴むのは難しかったのでは? 高校生くらいだとだいたい実家住まいで、使えるお金にも限界があったり、寄る辺のない気持ちを抱えがちな時期でもあったりすると思うので、大人が言っていることをそのまま吸収してしまう部分は共感できます。自分とは違うかもしれないけど、そこはなるほどという気持ちになりました。また、小比類巻が好きな音楽に関して、付き合っている栗原キホ(CV・種﨑敦美)が聴いてくれて、感想を言ってくれているのに、それをちゃんと受け止めてあげない感じ、人と上手く関係を結べないところも共感できるなと思いました。 ――主題歌だけではなく、声優としても参加されている幾田りらさんとあのさんの印象はいかがでしたか。 声がキャラクターとすごくマッチしていて、素晴らしいキャスティングだと思いました。お2人の声質がしっかり活きていますし、そもそも元の声がとてもいいです。前章・後章を通して、キャラクターの日常だけではなく、小学生時代のような幼い頃、また激しく泣くシーンなど、多様な感情表現が必要とされる役なので、そういったところも見事に表現されていて、素晴らしいなと思いました。 ――その幾田りらさんとanoさんが担当された、前章主題歌「絶絶絶絶対聖域」と後章主題歌「青春謳歌」を聴かれてどう感じましたか。 とても素晴らしい主題歌だと思いました。前章と後章でまったく曲の雰囲気が違うので、そのギャップも面白かったです。僕は職業柄か、歌も声質が気になるのですが、お2人ともオンリーワンだと強く感じるのは、それぞれの声の特性が素晴らしいからだと思いました。 ――ちなみに、いま楽しみにされている音楽は? 最近の音楽ですと、アラバマ・シェイクスのボーカル、ブリタニー・ハワードの新譜を楽しみにしています。 ■新たな感想が芽生えてくる複雑な構造になっている ――本作の登場人物の中で、気になっているキャラクターはいらっしゃいますか。 凰蘭の兄、中川ひろしです。原作の時から気になっていたキャラで、諏訪部(順一)さんの声がついて改めて強烈な印象を受けました。キャラクターとしてキャッチーなのですが、よくよく最後まで読み進めると、ひろしは話の本筋にすごく影響を与えているなと思いました。凰蘭はある時期において、ひろしの話を聞き、大切な人を守ることが大事だと考えたことで、自身の考え方が固まって、門出との関係性に変化を与えていくので、ひろしが命運を握っていたんじゃないかともとれるストーリー展開です。セリフが面白くてギャグ担当っぽいキャラなのですが、実はストーリーの中心にいる人物だと思いました。 ――本作で内山さんが思う隠れた見どころ、注目してほしいところはありますか。 原作を読んでいて思ったのですが、最後まで読んでみると「ということは?」という思いが生まれてきました。改めてまた最初から読んでみると、じゃあ、この時のキャラクターの心情は? という風に考えたくなる作りになっていると思いました。本作に関しても最後まで見た時に、このとき実はもうこのキャラクターは?とか遡って考えて、新たな感想が芽生えてくる複雑な構造になっているので、2周目がまた違う味で楽しめる作品になっているところが良いと思います。 ――いま声優として追求されていることはありますか。 基本的に僕は作品が面白くなることが一番だと思っているので、自分がキャラクターを演じるときは、その部品として何ができるのかと考えます。自己表現の前に作品の中でどう機能するかが重要だと思っているので、キャラクターにどう寄り添っていくのかを追求しています。でも、機能すれば何でもいいというわけではなくて、オリジナリティと言いますか、自分がそのキャラクターに声を当てる意義も加わらないとダメだと思っています。面白い作品を作るための優れた部品であることと、プラス何かしらのオリジナリティ、どちらもなければいけないと思っています。 ――内山さん流の作品や演じるキャラクターとの向き合い方は? 作品毎にいろいろやり方があると思っていて、たとえば原作がある作品であれば、原作の魅力、キャラクターの特性や性質というものを吸い上げて、声でどう表現していくのかが重要だと思っています。原作があればそのエッセンスみたいなものを自分なりに感じて、キャラクターの核になるようなものを丁寧にすくい上げて表現するといった感じです。 ――かなり原作を読み込むことになりそうですね。 読み込むのも大事ですが、なによりもイメージが大事だと思っています。感触というかうまく言葉で表現できないんですけど、何かを感じることが大事なのかなと思っています。 ――意外とファースト・インプレッションが重要だったり。 確かに最初の印象がわりと正解というか、大事だと思います。 ――いま声優さんを目指している方に向けてメッセージをお願いします。 自分の魅力というものが何なのか、それに気づけるといいなと思っています。最終的には、他の人にはない自分らしさというものが最大の武器になってくると思うので、自分の個性を活かせるようになれればいいと思います。 ――個性や自分の強みを早く見つけられたら一番良さそうですね。 なかなかすぐにわかることではないと思うので、最初は人の真似から始まってもいいと思います。この人みたいにやってみようと経験を積み重ねていくのもいいと思っています。でも真似だけだとそれだけで終わってしまうので、そういうのを繰り返しながら、自分らしさ、自分の武器みたいなものが完成していくといいと思います。 ――内山さんはご自身の強みはどの辺りに感じていますか。 僕は子役の経験はありますが、声優の専門学校などに通った経験はなくて、声のお仕事に関しては現場で全部教えてもらって、だんだん慣れていきました。声優として未成熟な素人の状態だったかもしれないけど、最初から型にはまらずにやってこられたところが、いま自分の強みになっている気がします。 (おわり)