【デーブ大久保コラム】トレードは選手とスカウトの人生を懸けた大きな戦いなのです
【デーブ大久保 さあ、話しましょう!】 先日、西武とソフトバンクの間でトレードが決まりました。「格差トレード」というようなことを言う方もいるようですが……お互いの利益などを考えた上でのトレードですから、本来は格差も何もないんですよね。 【選手データ】藤田太陽 プロフィール・通算成績 このコラムでも2009年に西武でプロスカウトの編成を担当したときの話を何度かしていますが、このトレードをきっかけに、今週は少しお話をしたいと思います。今回は同一リーグ同士という珍しいものでした。トレードを成立させるには、人事トップの勇気というものが非常に大きなウエートを占めています。 あのトレードは失敗だった、などとあとでいろいろと言われることが多い。もちろん、スカウト自身の耳に入ってきます。トレードは選手同士の人生を大きく変えてしまうものです。それでもチームのために断行しなければいけない。その中ですべては「結果」で判断されてしまいます。その結果がたまたま悪く出て、ネットなどでたたかれると、トレードに見合う選手は「いません」と報告してしまう可能性だってあります。 それだけプロスカウトは神経を使いながらやっている、ということを理解してほしいです。私のときは阪神と西武でトレードを成立させました。前年に一軍打撃コーチでしたが現場にいて、このチームには中継ぎが欲しいと思っていました。 その考えが当時の首脳陣と一緒でした。そこでウエスタンの試合に足を運びました。大阪市内で1泊4400円のホテルを探し出し、知り合いに車を借りて、経費をかけないように……(それでも経費を浪費したと揶揄(やゆ)されました)試合の視察に行きました。 そこで一目ぼれしたのが藤田太陽でした。もう太陽の真っすぐは、今の西武に絶対に必要だ、と確信しました。そこから通い詰め、当時の平田勝男二軍監督(現一軍ヘッドコーチ)からも「よく見といてくれ」と背中を押してもらいました。私の推測ですが、試合の視察のときには太陽がよく投げていましたので平田さんに配慮していただいたのかな、と思っています。 このトレードが成立する寸前に、西武側の選手名が漏れてしまいました。西武の場合、誰かに漏れてしまうとトレードは取り消しになるのですが、このときはどうしても成立させたかったので、ほかの選手でのトレードが決まりました。 西武での太陽の一軍初登板は今でも忘れません。大阪市内の1泊4400円のホテルの部屋で、「絶対に抑えてくれ!」と手を合わせながら状況を見守っていました。現在でも太陽とは交流があります。親のような、兄弟のような関係を保たせてもらっています。 トレードはまさに選手、スカウトにとっても人生を懸けた戦いでもあるんですよね。簡単には成立しないものでありますし、多くの方の努力によってようやく成立するものなのです。さまざまな思惑が入ってくるドラマでもあります。残り期限1カ月を切った中で、次はどのようなドラマが待っているのでしょうか。
週刊ベースボール