「年収の壁」引き上げで手取り減るケース多発の訳 パートは年収増で手当て減や社会保険加入が負担に
この要件は2024年10月に拡大されたばかりなのですが、今後さらに対象が広がる方向です。最近になって厚生労働省は、社会保険の適用対象から年収要件を撤廃する方針を明らかにしました。労働時間などの要件を満たせば、年収に関わらずに社会保険に加入する必要が生じます。 ■次に待ち構える130万円の壁とは? パート先の企業規模が小さいなどといった理由で、現在の年収106万円の壁に該当しない場合には、もうひとつ「130万円の壁」もあります。年収130万円までなら、自分で社会保険料を負担することなく、扶養者の勤務先の健康保険に加入することができます。
会社員の妻などは、年金においても国民年金の第3号被保険者となり、年金保険料の納付義務がありません。 しかし将来的に社会保険の年収要件が撤廃されれば、年収130万円以下で扶養に入っている人も、扶養から外れてパート・アルバイト先で社会保険に加入することになるでしょう。やはり、社会保険料の負担が減税以上に手取り減に影響してしまう可能性があります。 ■社会保険加入で手取り額はどうなる? 仮に、現在議論されている課税の最低ラインである年収178万円(月収14.8万円)で社会保険に加入すると、手取り額はどれくらいになるのでしょうか?
現行の税制・社会保険料率で計算すると、健康保険料7500円、厚生年金保険料1万3725円、雇用保険料890円、所得税2000円が天引きされ、手取り月収は約12.4万円(※単純計算では手取り年収は150万円弱)になります。 もし、冒頭で述べたように税控除が引き上げられればこのうち所得税部分の負担はなくなりますが、それでも手取り額は約151万円程度にしかなりません。もし年収103万円の人が労働時間を増やして年収178万円になったとしても、手取り額は丸々75万円増ではなく、48万円増にとどまるのです。
つまり、103万円の壁引き上げによって税負担が減っても、扶養に入っていた人が社会保険に加入することになれば、その分の手取り額は減ってしまうということです。 もっとも、社会保険に加入すれば、将来の老齢年金や障害年金、遺族年金のほか、傷病手当金や出産手当金などが手厚くなるメリットはあります。しかし収入を増やすためにパート・アルバイトをしている人にとって、働いても負担が増してしまうダメージは小さくないはずです。
今回の税の見直しでは「手取り増」が強調されています。しかしこのように、手当や社会保険料といった側面を考えると、扶養内で働くパートやアルバイトなどの人に対するミスリードにも感じます。本質的な手取り増につなげるには、複雑に関連しあう「年収の壁」を整理することが重要です。 (※文中の試算は、保険料や税額を現在の税制・保険料率に基づいて概算したものです。諸条件により計算結果が異なる場合があります)
加藤 梨里 :FP、マネーステップオフィス代表取締役