報酬10万円でアパホテル事件に加担した「元高校教師」は、裁判時には記憶が断片的に...なりすまし役の”認知症”まで見越して犯行計画を立てる地面師グループの「黒幕」たち
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第54回 『「高校教師」から“アパホテル地面師事件”の「なりすまし役」へ...80超えの老人が地面師グループと繋がりをもった「やくざ風の男たちが集う」巣鴨の穴場』より続く
12億6000万円のニセ取引
アパ事件では、2013年7月から8月にかけ、松本が偽造された印鑑証明や委任状を使って鈴木兄弟の兄仙吉になりすました。松本たちが「万安樓」所有の赤坂の一等地を相続したように見せかけ、ダイリツ、クレオスといった不動産業者を介してアパに土地を売却するように装い、アパの代表元谷外志雄らから12億6000万円を騙し取った。その取引現場に松本が駆り出されたのである。 12億6000万円の土地代金決済は、13年8月6日11時ごろ、アパ赤坂中央ビル3階の三菱東京UFJ銀行(当時)赤坂支店でおこなわれた。実はビルに入るときの模様などが、防犯カメラで録画されていて、ある意味、それが捜査の決定打となる。そして松本は逮捕・起訴された。だが、その肝心の取引現場について松本には、まったく記憶がないという。 「弁護士や刑事さんからも聞かれましたけど、銀行に行った記憶はほんとにないんです。ただ、途中で粟屋さんから、『小遣い稼ぎになるから』と言われてあちこちへ連れていかれたかな。でも報酬の話もなかった。金は銀行に行って登記が済んでから、持って来たんだ。それは粟屋さんじゃなく、伯爵に出入りしている性質の悪い高利貸しから、電話があってね。四谷駅のアトレに呼び出されて、10万円を受け取りました」 元高校教師はなりすまし報酬10万円で犯行に加担したという。話しぶりから見ても嘘を言っているようには見えなかった。
【関連記事】
- 【つづきを読む】「警察も信じられない、いっそ署の前でガソリンをかぶってやろうか」…「地面師事件」被害者を絶望させた警察の“奇行”
- 【前回の記事を読む】「高校教師」から“アパホテル地面師事件”の「なりすまし役」へ...80超えの老人が地面師グループと繋がりをもった「やくざ風の男たちが集う」巣鴨の穴場
- 【はじめから読む】念願の新築マイホームが借地に…「地面師」詐欺を取り巻く「混沌」と「闇」、警察が悔やんだ衝撃の展開とは
- 《アパホテル地面師事件》“100億”の資金を動かし暴力団との関係も噂された「大物地上げ屋」が“真相”を語る
- 「高齢女性が1億のビルを主治医に贈与しようとしているらしい」...病院を舞台に、持ち主の知らぬ間に「融資や売却が繰り返される」地面師詐欺に発展