【上白石萌歌】社会人2年目で見出した演技の醍醐味。「セリフに血を通わせるのが俳優の仕事」
気鋭の劇作家からダイレクトに学んだ、セリフに血を通わせる方法
ーなぜ、萌歌さんはそんなにも加藤さんの作品に惹かれているのでしょうか? 萌歌さん 加藤さんのお芝居を初めて観たのが、彼が主宰する劇団た組の『誰にも知られず死ぬ朝』(2020年)でした。お客さんが360°舞台を取り囲む不思議な構図で、余白はあるけれど、隙がまったくないんです。あんなふうにお芝居を全身に浴びたのは生まれて初めての経験で、とても衝撃を受けまして、当時の日記にめっちゃ感想を書きつづったのを鮮明に覚えています。 いつか自分も何らかの形で加藤さんにお目にかかりたいと思っていたので、今回ご一緒できて、とてもうれしいんです! ー念願叶って、加藤組にジョインできた率直な心境をお聞かせください。 萌歌さん 憧れの方とお仕事をご一緒させていただくので、まず、いちファンとして「絶対に嫌われたくない!」という思いが先行してしまい……(笑)。いつも以上に緊張感があって、体がこわばってしまうような瞬間もありました。 でも、ずっと観続けてきた加藤さんの作品の制作の裏側や、彼のディレクションスタイルを肌で感じることができ、とても贅沢なことだとよりうれしく感じました。 ー数々の作品に関わられてきた萌歌さんに“贅沢”と言わしめるなんてすごいですね! 萌歌さん 実は、監督・脚本・演出と一貫してトータルで手がけられる方の作品に出演できる機会もなかなかないので、その点でも贅沢だと感じました。特にドラマの場合は、3つの役割がキッパリ分業されているケースも多いですし、話によって監督が変わったりしますので、演じる側もじっくりと腰を据えて作品に取り組める安心感がありました。 ーいつも冷静で飄々とした印象の加藤さんがリードする現場はどんなムードでしたか? 萌歌さん いつもどっしりと構えていらして、大先輩の年齢にあたるような俳優さんやスタッフさんにもまったく臆さずにお話ししていらっしゃり、「すごいなぁ」と思いました。基本的に常に淡々としている方なので、監督の持つフラットなムードに釣られて、私たちも、ゆるめる時はゆるみ、締めるところは締める、そういうメリハリを作れた現場だった気がします。 ー加藤組への参加を経て、ご自身の成長の糧となったことはありますか? 萌歌さん 私たち俳優の仕事は、自分から発せられたものではない言葉に血を通わせることですが、加藤さんの脚本は初めて出合ったタイプのもの。すごく変わっているんです。たとえば、「えっと……」と口ごもるような瞬間や、ふだん生活していて何気なく会話を噛んだりする瞬間も、すべて脚本に書き起こされているんですよ。恐ろしく難しいんです。 そうした加藤さんの言葉をしっかり“もの”にできたかどうかはわからないのですが、どんなセリフであれ、ちゃんと自分の言葉として噛み砕いて、これからもお芝居をしていきたいなという思いが一段と強くなりました。もっと体全体でセリフを言えるような演者になりたい。セリフと自分との関係が大きく変わったような気がします。