日本が今よりもっと円安だった40年前と比べて、ずっと貧しくなった深刻な事情
日銀は、為替レートは、金融政策の目標ではないとしている。しかし、対外的な通貨価値の安定は、金融政策の最も重要な目的であるはずだ。為替レートの水準を金融政策の重要な目標として意識する必要がある。 日銀は、YCC(編集部注/イールドカーブ・コントロール)を廃止するとしながら、必要に応じて国債の買い入れを行なうとしており、金利抑制策を実施する可能性を否定していない。こうした方向づけを見直し、長期金利を完全に市場の実勢に委ねる中央銀行本来の金融政策に戻るべきだ。 ● 円安がもたらす企業利益増は 消費者の犠牲で生じたもの また、あるべき長期金利の水準についての見通しを示す必要がある。現在の日本の金利は、適切な水準に比べて低すぎると考えられる。 物価上昇率が高くなれば、それに応じて名目金利も上昇する。物価上昇率2%台が続くのであれば、長期金利は、潜在成長率+2%程度にならなければならない。 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」の成長実現ケースでは、長期金利は2032年以降、3%台になるという見通しになっている。こうした状態を目標値にするのが、1つの考えだ。
最近の日本の消費者物価には、国内の賃金上昇によって引き起こされるコストプッシュ的な動きも見られる。しかし、輸入価格の動向が消費者物価指数(CPI)に大きな影響を与えることも間違いない。だから、賃金上昇に伴うコストプッシュ要因によるインフレを抑制するためにも、輸入価格の引き下げが重要な課題だ。 そのために、為替レートを正常な水準に戻す必要がある。ユーロやポンドがコロナ前の水準に戻ったことを考えれば、円をコロナ前の水準に戻すことは、決して不可能ではないと考えられる。 円安で企業の利益は増えるが、それは帳簿上のものに過ぎない。そして、企業利益が増える基本的な原因は、輸入価格の上昇分を消費者物価に転嫁することにある。つまり、円安による企業利益増は、消費者の犠牲において生じるのだ。生産性の向上による健全な利益増ではない。 しかも、そうしたメカニズムで利益が増えるために、企業が技術開発に取り組まないという問題がある。日本経済の長期的な停滞は、これによって引き起こされた。
野口悠紀雄