ブレイキンは“アメリカ生まれではない” ロス五輪不採用の文化的背景と新たな鉱脈を探る
ブレイキンの鍵を握るBガールと必修化
■新体操と新競技 新体操は近年、危険度の高い技を禁止している。ブレイキンの大技が得点に結びつきにくいのも、似たような背景があるからだろうか。どのみち五輪の花形にとってアーバンスポーツはおだやかな存在とはいえない。 影響らしきものはすでに出ていた。ブレイキンの大技にエアーフレア(エアートラックス)というのがある。おなじく代表となったHIRO10が、予選(敗退)の土壇場で魅せたワンハンドエルボーエアーの原形だが、これを2008年とある公式戦でアメリカのモーガン・ハム(テレビ番組『SASUKE』にも出演)が初めて披露、体操技として認定されている。 ただし、それまでは逆だった。トーマスフレアやエアータートルといったブレイキンの技は、元来新体操が編み出したもの。体操ではエアータートルのことをフェドルチェンコと呼ぶ。発案・実演したセルゲイ・フェドルチェンコの名に由来するが、エアーフレアもハムにちなみハミネーターという技名で米体操連盟が一度登録。ところがBボーイの有志たちがこれに反発、署名運動にまで発展し撤回されている。つまらない憶測はよすが、ロス五輪で不採用になった理由とは無縁であってほしい。 ■鍵を握るBガールと必修化 Bガールに光明を見出すのはたやすい。最初の金メダリストとなったAMIはもちろん、準々決勝まで進んだAYUMIの年齢(41)を聞いて驚く。そもそもブレイキンの黎明期に“Bガール”という呼称は用意されていなかった。バレエやフィギュアスケート、チアダンスなど、ダンスは女性優位になりやすい。そこに男性優位のブレイキンによって逆転現象が起き、ダンス人口が爆発した。 Bガールとは、つまるところ新常識への挑戦である。スケボーやBMXにも類例が見られるが、AMIのメダルの色、AYUMIの“数字”は全ブレイキンの未来も輝かすだろう。 かつて体操選手からは「あれはダンスだ」と舌打ちされ、ダンサーからも「あれは体操だ」と嘲笑を買っていたブレイキン。居場所なきダンスをやがて救ったのが、ストリートとは対極にある学校(必修化)なのだから、これ以上の皮肉もない。 だが、それがどんなものであろうと個人の情熱を抑え込むことはできない。先般ある中学校長が部活からヒップホップダンスを外すと発表、SNSを中心に賛否を呼んだ(※)。これに対し呂布カルマがX(旧Twitter)にポストし、「そういうのは勝手にやるものだから」と一義的な解釈を牽制した。今夏のチャリティイベント『NO BULLY FESTIVAL』では、Zeebraがこう呼びかけている――「ヒップホップでいじめ撲滅を」。一見対照的に映るヒップホップとの距離感が、双方に伏流する“自立・自発”の精神によって奇しくも重なり合う。ブレイキンの未来もそこにあるに違いない。 ※:学校側は指導者不足、団体演技への方針転換を理由に創作ダンスへの切り替えを発表。一部の保護者から再考を望む声が届けられ、一学期終業式に3年生の引退式としてヒップホップダンスの発表会を設けると報告された。
若杉実