ものすごい大はものすごい小を兼ねる。 ~世界の頂点、ピーターステフ・デュトイ~
あれは駆け出し記者のころ。上司に言われた。
「いいか。素晴らしい、なんて書くんじゃないぞ。どう素晴らしいかを書くのが俺たちの仕事だ」
正しい。ならば「すごい」もそうだろう。どうすごいのかを伝えるのがスポーツライターの職責である。そこで。
ピーターステフ・デュトイは、あの南アフリカ代表スプリングボクスの長身FWは、やはり一言、すごい。ものすごい。すごいったらすごい。
11月24日。国際統括組織「ワールドラグビー」の男子15人制年間最優秀選手に選ばれた。2019年につぐ受賞である。あらためてトヨタヴェルブリッツの所属。開幕を前にリーグワンの価値をさらにひとつ高めた。
南アフリカ協会のデータに従えば「身長2m。体重115kg」の巨漢である。きれいなフォルムの高層タワーにして高速で波を切る長大なタンカー船のごとし。
「チームスポーツですから仲間がいないと成り立たちません。いまのスプリングボクスの質の高さこそが私の幸運なのです」(IOL)
母国のプレスとのリモート会見で自身の栄誉について話した。きれいな言葉にウソがない。優れた者のそれは特権である。
さて。ファンは親しみをこめて「PSDT」と呼んだりもするトップのラグビー選手のどこがすごいのか。いまから言語化を試みる。
「雄大な体格を忘れさせる勤勉」「ここにもそこにもあっちにもデュトイ出現」「大は小を兼ねる。それどころか、ものすごい大はものすごい小を兼ねる」。あっ、最後、また「すごい」が。
ワールドカップ日本大会決勝の姿を英国の新聞はこう描写した。「彼が踏み固めなかった芝は横浜のスタジアムの中に存在しない」(ガーディアン)。比喩なのに比喩でもない。ほぼ事実だからだ。
おもなポジションはFW第3列、6でも7でも8でも、のべつ走っている。のべつ倒しては起きる。ひとときもじっとしない。駆けて駆けて駆ける。175cmの小さなフランカーが競争の生き残りに「動き回ってこその私」とみずからに言い聞かせるように。