ものすごい大はものすごい小を兼ねる。 ~世界の頂点、ピーターステフ・デュトイ~
「黙々と集中する。まったく手を抜かない。そして練習が終わると、だれよりも先に引き揚げる」
まれにきつい声を発するのは以下の場合。ぶつかり合いでどこかを痛める。チームの専門スタッフはこのセッションは抜けたほうがよいと告げる。そのときだけ「いや自分は続ける」と言い張るらしい。
4年前に左足を失いかけた。スーパーラグビーの試合中の衝撃で血管や筋肉が圧迫され、切断の可能性もあった。427日後の再起はニュースになった。負傷の流れはこうだ。ぶつけたのが開始25分ごろ。氷で処置する。50分に再び「患部」に相手の肩が衝突、ここで異変に気づいた。ところが記録では67分まで出場している。頑張るにもほどがある。
常識を超える精勤謙虚奮闘努力には、どうやら先祖の誇りを継ぐ者の使命が関係している。特大の身体サイズより大義はさらに大きいのである。2年前にはこんなコメントも。
「スプリングボクスの勝利が世界を変えることはできない。ただ誰かの人生を少しだけ変えることならできる」(同前)
記者の心得に「疑ってかかる」がある。実際にそれほどいいやつなのか。美談や成功譚を鵜呑みにするなよ。ならばピーターステフネス・デュトイ7世はどうなのか。結論。たくましくて控えめで弱みをさらさず強がりもしない。どこを切り取っても見事なラグビー選手。異議はない。
藤島 大