ものすごい大はものすごい小を兼ねる。 ~世界の頂点、ピーターステフ・デュトイ~
本人が課す主題がある。2021年の来日後、ラグビーマガジンに明かした。
「80分間、グラウンドから姿を消さない」
2022年1月16日。東京・味の素スタジアムでのヴェルブリッツ対東京サントリーサンゴリアス。この目で確かめた。当時29歳のPSDTは背番号6をまとった。記者席からその攻守のみを双眼鏡で追いかけた。後半31分に退くまでの71分間、いっぺんも姿を消さなかった。
サンゴリアス流の波状攻撃にさらされる。前へ出る。すぐに戻る。前へ出て倒す。起きて戻り、もういっぺん前へ。そうした繰り返しにあって体勢がぐらつかない。アスリートの真価は負けたゲームでわかる。8-50の完敗にもピーターステフ・デュトイのフィットネスおよび使命をまっとうする意思は生きていた。
苦しい時間帯にもひたひたと防御のポジションにつく。律儀にかがんで、的をとらえる視線を低い位置におく。スパイクの鋲はピタリと芝を噛んだ。仲間もほぼ同じように構えはした。ただし、ここまで足は決まらない。
こりゃあ、すげぇーや。つい、つぶやいてしまった。世界の顔は破壊や突進ではなく、ひたむきというオーラを発散した。スクラム起点の速攻に失点の場面、いちばん遠くにいたはずが、ダミアン・マッケンジーのスコアの瞬間、もうそこにいた。
先日までのスプリングボクスのテストマッチにおける勇姿ともそっくり重なる。またもまたしてもスポーツ記者には禁断の安易な表現に頼るなら、ともかく「頑張る」のだ。
ピーターステフ・ドュトイは本当はピーターステフネス・デュトイ7世(Pieter Stephanus du Toit VII)である。1820年代より続く名。5世の祖父はかつてスプリングボクスのプロップであった。ちなみに幼い息子も同8世だ。21年のインタビューに明かしている。
「運命を感じながら育ちました。この名を持つ責任があります」(ガーディアン)。
昨年のワールドカップ期間中、ヴェルブリッツ関係者とたまたま話す機会があった。ほとんど反射的に聞いた。普段の練習でのピーターステフ・デュトイはどんな様子?