渋谷に現代アートのミュージアムを 実業家が見据える未来|今月のアートな数字
企画展、芸術祭、フェア、コレクションなど多彩な話題が飛び交うアートの世界。この連載では、毎月「数字」を切り口に旬なアートトピックをお届けしていく。6月、渋谷に誕生した現代アートのミュージアム。その“館長”たる実業家の思いとは。 経営者の重要な仕事は決断することで、そのスピードは速いほうがいいといわれる。人材、IT、医療、投資など多角的なビジネスを手がける実業家の植島幹九郎は、そのアートコレクションにおいても、即断即決により、約2年半で680点を超える作品を収集。 2024年6月、東京・渋谷にその一部を公開する「UESHIMA MUSEUM」をオープンした。これは、前年春の弊誌の取材で宣言していたことでもある。 場所は、植島の出身母体である渋谷教育学園の敷地内。麻布台ヒルズに移転したブリティッシュ・スクール・イン・東京の跡地という「教育的、文化的な地である」ことも決め手となり、スピーディに動き出した。22年2月に創設されたUESHIMA MUSEUM COLLECTIONは「同時代性」をテーマとし、現役で活動するアーティストの、より新しい作品を中心に収集している。 アートフェアや個展、芸術祭などでアーティストと対話をするなかで、彼ら・彼女らが作品を通じて投げかける視点や課題は「より多くの人に見られるべき」と感じた植島は、当初から、購入作品をオンラインで公開し、時にフェアやギャラリーでも展示を行ってきた。日本で世界の最先端のアートに触れられるように、海外の人に日本のアートを知ってもらえるように。それを実現するためにも、「老若男女が集まり、世界的にも知名度の高い渋谷に構えられた意味は大きい」と植島は言う。
アートコレクターになる前と後の大きな変化
ミュージアムは地下1階、地上6階を使い、現在約80点を展示している。「絵画における抽象」や「女性画家のまなざし」などのテーマで構成された空間もあれば、オラファー・エリアソンや塩田千春といった作家ごとの部屋も。“アフロ民藝”を提唱するシアスター・ゲイツの部屋に関しては、「春に来日していた本人が設営中に訪れ、展示に合わせた音楽や照明を考えてくれた」という。 開館後、平日の人の入りは穏やかであるものの「フル回転させた最初の土曜日には400人を超える方々にご来場いただいた」と笑顔を見せる。来場者のSNS投稿に手応えを感じると同時に、コメントを参考に改善も加えている。 アートコレクターになる前と後で、いちばん大きな変化は何かと聞くと「思考の幅が広がったこと」だという。「それまで社会との接点は主に家族と仕事だったのが、直接ビジネスに関係ないことも含め、グローバルに多種多様なテーマに触れるようになった」。しかし、アートを通じて真理に迫るアーティストとの交流は、学生時代に物理学に没頭し、物事の本質を探究し続けてきた植島にとって自然なことだったのかもしれない。 ミュージアムという常設空間ができてから、ゲストを案内するたびに自分自身の理解も深まり、また「次はどんなテーマで展示をしよう」という視点で作品購入を考えることも増えた。今後は、教育機関との連携や、若手キュレーターへのキュレーション機会の提供も考えているという。新たなアートスポットの進化に注目したい。
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