ニックスを古豪復活へと導いたトム・シボドーが契約延長、『選手を酷使』する起用法でも特別な関係性を築く
2020年からニックスを率いる、任期は2027年まで延長
ニックスが『GAME7』までもつれたペイサーズとのカンファレンスセミファイナルで敗れてシーズンを終えたしばらく後、ジェイレン・ブランソンとジョシュ・ハートは自分たちのポッドキャストのゲストにトム・シボドーを招いた。「今はビーチの別荘にいる」と言う指揮官は、ブランソンとハートに「別荘!」と茶化されると、「ささやかな別荘だ。君たちとは稼ぎが違う!」と言い返した。 66歳のシボドーにフレッシュな雰囲気はないし、頑固で口下手。ファンと積極的にコミュニケーションを取るタイプではなく、実績はあっても人気があるコーチではない。ニックスが結果を出しているにもかかわらず、「シボドーが選手を酷使しなければ」というニュアンスの批判がしばしば出てくる。 昨シーズンもシボドーは『いつものように』自分が主力と見なした選手を使い倒した。主力は誰もが満身創痍で、ブランソンもハートも最後は力尽きる形でペイサーズに屈した。主力のプレータイムが毎回のように40分を超え、ただ分数が長いだけでなくハードワークを徹底させるシボドーの下でプレーするのは過酷だ。それでもブランソンもハートも「そのスタイルが好きだ」と公言しているし、自分の収入が多少減るのを厭わずにチームに残る選択をしている。さらにミケル・ブリッジズのように、シボドーのバスケをやるためにニックスに来る選手もいる。 そこまでは『NBAのビジネス』かもしれないが、ビジネス上の付き合いだけであればオフに自分たちのポッドキャストに招いたりはしないだろう。彼らの間に、NBAでも稀にしか見られない強い結び付きがあるのは明らかだ。 極端な選手起用からシボドーを根性論ベースの古臭い指導者と見る向きもあるが、それは正しくない。シボドー体制1年目のニックスは、3ポイントシュート成功率でリーグ24位だったが、その後は7位、10位、11位と安定して良い決定機を作れるチームとなった。ジュリアス・ランドル、ミッチェル・ロビンソンにケガが相次ぐ中で、アイザイア・ハーテンシュタインをセンターで機能させ、他の選手にはできないポストアップからのプレーメークという新たな要素を取り入れてもいる。 特定の選手にプレータイムが偏る起用法は、外される選手にとっては厳しいものだが、デリック・ローズやケンバ・ウォーカー、エバン・フォーニエといった選手の知名度に引っ張られず、自分のスタイルに適応できないと見れば外す決断力はチームの成功に欠かせないものだ。それでいてローズにはシックスマンとして活躍の場を作り、残り少なくなった才能をきっちり引き出すなど起用法の妙も見せる。ベテラン偏重の傾向はあるが、ハーテンシュタインのブレイクに限らず、ドンテ・ディビンチェンゾをリーグトップクラスのシューターに育て、2巡目指名のマイルズ・マクブライドの成長を粘り強く待って昨シーズンにブレイクさせるなど、若手を台頭させてもいる。ベテランコーチではあれ、常に変化を求め、成長し続けているのがシボドーなのだ。 そのシボドーは先日、ニックスとの契約延長に合意した。新型コロナウイルスが猛威を振るっていた2020年、彼は5年契約を結んでニックスのヘッドコーチに就任した。残り1年となっていた任期はこれで2027-27シーズンまで伸びた。金額は非公開だが、ここ数年で優秀なヘッドコーチの年俸は高騰しており、大きな昇給があったと思われる。 ニックスは長く成功から遠ざかっていたし、結果が出なければ衝動的に指揮官を交代させてきた。過去20年間で最初の任期を全うし、契約延長に成功したのはアイザイア・トーマスだけ。ニックスのヘッドコーチがクビになることなく5シーズン目の任期を迎えるのは、若かりし頃のシボドーがアシスタントコーチとして仕えたジェフ・ヴァン・ガンディ以来24年ぶり。シボドーはニックスを長きに渡る不振から上位争いのできるチームへと変え、さらなる上積みを予感させている。 もっとも、ハーテンシュタインを引き留めることはできず、昨シーズンからは戦い方を変える必要があり、新戦力ブリッジズを活用する意味でもランドルをセンターで使うスモールラインナップの時間が増えそうだ。レブロン・ジェームズのような『超ビッグネーム』はいないが優れた手駒が揃うチームをどう機能させるか、ささやかなビーチハウスでシボドーは考えを巡らせているに違いない。