川口市に集まるクルド人は本当に難民なのか? 「僕自身がクルド人だが、トルコで迫害はない」
「僕自身がクルド人だが、迫害はない」
調査の中で、3人のクルド人と、シリアから逃れて来たクルド系難民にも話を聞きました。 その中の一人、ガジアンテップのアメリカ系NGOで働いているアレヴィー派の男性は、「僕自身はクルド人だが、エルドアン政権が20年やってきたクルド人との和解政策を支持する。エルドアンが大統領になってからはクルド人への迫害はない」と述べていました。ただ一方で、「西部と東部で経済格差はある。東部のクルド人地帯はやはり開発が遅れている。アレヴィー派への差別もある」とも指摘していました。 また、ヴァン市で観光通訳をやっているクルド人男性は政府に批判的。彼とはヴァンからイスタンブールまで一緒に飛行機で帰りましたが、混み合う待合室で搭乗を待っているとき、英語で声高に政府批判をしていました。私は「彼は大丈夫かな」と危惧したのですが、とがめられることもなかったのでそれは杞憂のようでした。さらに、もう一人のクルド人男性はもっと反政府的でした。彼の妹はPKKの構成員で今も東部の山の中で活動しているとのこと。本人もPKKシンパです。 彼によれば、1990年代、まだ幼い頃に、夜中にトルコ兵が家に来て、家族がみな集められ、庭で2人の親戚が銃で撃ち殺された、と。それがトラウマになり、今でも強い反政府感情を持っているそうです。 そんな彼は、私が訪れる数週間前にメッセージアプリのWhatsAppにPKKの旗を載せ、警察に呼びつけられたとのことです。 しかし、そうした“嫌がらせ”を受けたものの、逮捕や処罰までされることはない。それどころか外国に自由に出入りし、韓国や日本にもビジネスで渡航したことがあるそうです。 後編【川口市のクルド人の来日目的は「就労と家族統合」 クルド人自身が「弟は難民じゃなくて移民」】では、クルド人の本当の来日目的と、日本人が彼らと共生するための道について詳しく報じている。
滝澤三郎(たきざわさぶろう) 東洋英和女学院大学名誉教授。1948年、長野県生まれ。東京都立大学大学院修了後、法務省に入省。以後、国連ジュネーブ本部やUNRWAなどに勤務し、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)では駐日代表等も務める。東洋英和女学院大学の教授を経て、現在は名誉教授。 「週刊新潮」2024年10月10日号 掲載
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