川口市に集まるクルド人は本当に難民なのか? 「僕自身がクルド人だが、トルコで迫害はない」
「難民鎖国」は終わった
日本の状況はどうでしょうか。 昨年、日本で難民申請した人の数は1万4000人。世界では360万人ですからごくわずかです。もともと日本は紛争地から遠く、日本語という障壁もあり、外国人のコミュニティーも少ないことから、申請者も少なく、また難民認定率も数年前まではごく低かった。そのため、メディアは「難民鎖国」などと非難していました。しかし、昨今の日本の状況が大きく変化していることはほとんど報じられていません。 国軍によるクーデターが起きたミャンマーについて、在留するミャンマー人3万5000人の希望者に「特定活動」の在留資格を与え、タリバンによる権力掌握後にはアフガン人400人を日本に避難させ、350人以上を難民認定した。またウクライナからの避難民も2500人を受け入れ、内戦に苦しむスーダンについては、在留スーダン人200人のビザを延長しました。 昨年の入管法改正により、従来の難民制度に加えて、補完的保護対象者(準難民)制度が創設されました。ウクライナ避難民の大半は補完的保護の対象になるでしょう。 15年ほど前には年間50人前後だった難民受け入れ数が、今年は準難民も合わせれば1500人を超えると見られ、「難民鎖国」は終わったといえます。 他方で、難民申請さえすれば強制送還が回避できるという「送還停止効」に歯止めがかけられました。難民救済の範囲を広げるとともに、難民制度の乱用を防ぐ体制になったわけです。
クルドを巡る事情を現地で調査
このような中で、川口のクルド人問題が話題となっています。 彼らについては迫害や暴力の対象、犠牲者として捉える人々(犠牲者観)と、共同体の安全や価値への脅威をもたらす侵入者として捉える人々(侵入者観)が対立しています。互いに批判をし合い、分断が生まれています。 この問題の解決のためには、川口に来るクルド人がどのような人々で、なぜ来日しているのかを押さえておくことが必須でしょう。 UNHCRは、難民を「人種、宗教、国籍、政治的意見または特定の社会集団に属するという理由で、自国にいると迫害を受ける恐れがある」人々としています。出入国在留管理庁は、「迫害」を「生命、身体又は自由の侵害又は抑圧及びその他の人権の重大な侵害」と定義していますが、果たして彼らは「迫害」されているのでしょうか。 私は2021年4月からこの3月まで、国際的な動向を踏まえた日本の難民政策のあり方を考察する研究に取り組みました。 その一環として昨年はポーランドとアメリカを訪問。今年の3月10日から21日にはトルコを訪れ、現地調査を行いました。 トルコ西部のイズミール、中部の首都アンカラ、2023年2月に大地震のあった南東部のガジアンテップとその周辺の街、東部のヴァンなどを訪れ、UNHCRやIOM(国際移住機関)などの国際機関、SGDD-ASAM(難民申請者・移民連帯協会)、INARA(支援、救済、援助のための国際的ネットワーク)、またケア・インターナショナルなどの国際的NGOを訪ね、クルドを巡る事情を聞きました。 トルコにいる日本人の研究者や日本大使館職員にも聞き取りを行っています。 現地の情勢を良く知り、英語で解説できる3人のクルド人には特に詳しく状況の説明を受けました。