ハルカミライ×THE BLUE HEARTS、chelmico×アジカン、マイヘア×aiko……実在アーティスト名が登場するユニークな歌詞
アーティストは影響を受けた先人たちへリスペクトを、楽曲の中に込めることがある。それはギターフレーズの引用であったり、歌詞表現のオマージュであったりと様々だ。その中で大胆にも、そのバンドやアーティスト名をそのまま歌詞の中に登場させるケースがある。本稿ではそんな楽曲たちを紹介し、どんな意義を果たしているのかを掘り下げてみたい。 【画像】 歌詞が反響を集めるハルカミライ 橋本学 ■ハルカミライ「アストロビスタ」 ハルカミライは「アストロビスタ」の中で〈眠れない夜に私 ブルーハーツを聴くのさ/独り占め出来るドキドキがあるんだ〉と歌っている。THE BLUE HEARTSはハルカミライの音楽性とも直結しており、納得感の強い引用だ。この楽曲はもどかしい想いを描くラブソングであり、リスナーのTHE BLUE HEARTSを聴いた体験も呼び起こすことでその高揚感を共有する。楽曲の切実さを自分たちの大切なバンドに託した、真っ直ぐなリスペクト表明である。 ■カネヨリマサル「ひらりとパーキー」 カネヨリマサル「ひらりとパーキー」にはくるりが繰り返し登場する。くるりを聴きながら、かつてくるりを聴いていた場面を思い出し、大人になっていくことをも物憂げに捉えたこの楽曲。ソングライターであるちとせみな(Vo/Gt)のパーソナルな想いが表現された歌詞だが、音楽が過去の記憶を蘇らせ、普遍的な感傷を掬い取ってもいる。そして、くるりのどの曲を聴いていたのか? という想像を膨らませることもできる。カネヨリマサルの音楽性からするとやや意外に思えるくるりの引用は、むしろ楽曲のイメージを豊かに広げるのだ。 ■chelmico「Good Morning」 意外性のある引用と言えば、ラップミュージックやヒップホップの歌詞では固有名詞が頻出し、その中でバンド名が用いられることもある。特記したいのはchelmicoの「Good Morning」。〈Hold me tight i miss your love Listen to the/アジカン〉と、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの略称とともに同バンドの楽曲「Hold me tight」の歌詞を1フレーズ拝借している。これは喧嘩した恋人への想いを募らせる楽曲で、そのシチュエーションにもぴったり合う。chelmicoのRachelはアジカンのヘヴィリスナーゆえ、こうした生活感のあるリリックへの引用も自然に馴染むのだろう。書き手の気分が軽やかに乗ったワードチョイスと言える。 ■ネクライトーキー「だけじゃないBABY」 ネクライトーキーは様々な楽曲で先人たちにオマージュを捧げているが「だけじゃないBABY」にはNUMBER GIRLを登場させている。現実逃避をし続ける歌詞の途中、〈世界が終わる/「きみはどうする?」/六畳一間で僕はただ/NUMBER GIRLを聴いていた〉と歌うのだ。踏み出さなければ変わらないことを知りながら現状から目を逸らす、そんな葛藤を言い当てるのがNUMBER GIRLの爆音なのだろう。「だけじゃないBABY」はどこかセンチメンタルな曲調だからこそ、この引用は切実な響きを持っているように思う。 ちなみにNUMBER GIRLの名は突然少年、LUNKHEADといった数多くのバンドの楽曲に登場。ASIAN KUNG-FU GENERATIONは「N.G.S(ナンバー・ガール・シンドローム)」と名づけた曲を作っており、きのこ帝国は「Girl meets NUMBER GIRL」という曲でヒリヒリとした青春の痛みを表現。青く荒れ狂った若さを象徴するバンドと言える。