田家秀樹が語る、中島みゆきの名曲をカバーしたコンサートアルバム
みゆきさんの歌は歌い手さんに演技力を求める曲がかなりある
あした / 仲宗根泉 言うまでもなくHYのヴォーカリストですね。「あした」は1989年のシングルで1990年のアルバム『夜を往け』に入っておりました。これも『Singles(リマスター)』の中に入っていますから、両方聴き比べるという楽しみもあります。今回の出演者はいろいろなバリエーションがあって、さっきの半﨑さんは札幌出身、仲宗根泉さんはHYのヴォーカリストですからね、沖縄県東屋慶名出身。そういう北と南の女性ヴォーカリストがこんなふうに2人並んでいるわけですから、出演者の顔ぶれ、出身、世代とかとてもバラエティに富んでいる。山本彩さんが90年代生まれ、ハンバートハンバートのお2人は70年代生まれ、半﨑さんと仲宗根さんは80年代生まれなんですね。HYとみゆきさんという、この2つの組み合わせはみゆきさんのファンの人たちの中でもあまり浮かばないでしょう。でも、仲宗根さんは自分の歌として歌っていましたね。お客さんに「お父さんHY知ってる?」というふうに自分から語りかけたりして、お客さんの「え、この人?」という空気を和ませるという、彼女も天才的なライブ・パフォーマーですね。岩尾さんは自分が人選をして曲は出演者と話し合って決めたというふうにおっしゃってましたけども、仲宗根さんの選曲は全部ご自分で私これを歌いますということで、歌われたそうです。 2015年の「歌縁」も研ナオコさんとか大竹しのぶさんとか、満島ひかりさん、平原綾香さん、中島美嘉さん、クミコさん、坂本冬美さん、大物、大御所がたくさん並んでいたのですが、その中で次の曲は満島ひかりさんが歌ったんですね。今回は思いがけなかったです。一青窈さんでした。「ファイト!」。 ファイト! / 一青窈 5曲目、5人目の出演者・一青窈さんの「ファイト!」お聴きいただいております。「歌縁」は大阪フェスティバルホールと東京、中野サンプラザと2箇所で行われたんですね。一青さんは東京だけだったのですが、これもびっくりしました。この歌をカバーする覚悟と決意みたいなものが、この歌い方に表れていますね。歌とも語りともつかない。一青さんはお芝居もやったりしていますから、自分の特長、自分の武器で勝負しようと思われたんでしょう。「歌縁」はバックの演奏を高田漣さんが率いるバンド、アレンジも彼がやっているんですね。「ホームにて」もそうですが、間の活かし方が見事。「ファイト!」の間も漣さんがいなかったら、こういう歌にならないだろうという1曲でありました。次は6曲目です。今週のハイライト、斉藤由貴さん「歌姫」。 歌姫 / 斉藤由貴 今ヘッドホンで聴きながらお話をしているんですけれども、ストリングスが入ってきたときに鳥肌が立ちましたね。ワンコーラス終わった後で客席からサーッと拍手が起きてきたでしょう。客席には誰が歌っているかわからないで始まったんですよ。斉藤由貴さんは大阪だけのシークレットゲストだったので、出演者紹介も曲紹介もなく、歌いながら登場したんです。お客さんは「え!誰!」という沈黙があって、息を呑むような空気になって、歌い終わった後に、あ、斉藤由貴だってわかって、あの拍手になったんですね。ライブ・アルバムの中でも拍手の持っている物語性、ストーリー性、ドラマという意味でこんなに拍手がいいライブ・アルバムは少ないんじゃないでしょうかね。「糸」もそうでしょうけども、「歌姫」は女性歌手だったら一度は歌ってみたい、一度は呼ばれてみたい、そういうタイトルの曲でしょう。それを女優さんですよ。彼女が選んで歌っている。リップノイズが入っているのもお気づきになるとうれしいんですけれども、舌のちょっとしたノイズも全部入っているんですね。彼女も緊張しながら歌っていたんだなというのがよくわかるという。みゆきさんの歌は歌い手さんに演技力を求める、そういう曲がかなりありますけれども、さっきの半﨑さんと一青窈さんの歌の表現の仕方とまったく違うところで「歌姫」に取り組んでいる斉藤由貴さんに拍手でしたね。そういういろいろな意外性が収められているライブ・アルバム、男性もそうなんですよ。7曲目です。曽我部恵一さん「永遠の嘘をついてくれ」。