「道徳は非合理で競争に不利」…人間にも共通する”利己的な個体が得をする”生物界の残酷な宿命
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 長谷川圭 高知大学卒業。ドイツ・イエナ大学修士課程修了(ドイツ語・英語の文法理論を専攻)。同大学講師を経て、翻訳家および日本語教師として独立。訳書に『10%起業』『邪悪に堕ちたGAFA』(以上、日経BP)、『GEのリーダーシップ』(光文社)、『ポール・ゲティの大富豪になる方法』(パンローリング)、『ラディカル・プロダクト・シンキング』(翔泳社)などがある。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第16回 『「資源枯渇・高速道路の渋滞・核兵器所持」には人類のヤバすぎる心理が共通していた!…まさに人類の“醜さ”を表した「集団行動の問題点」』より続く
アメリカの銃社会
社会問題の多くも、同じように説明できる。 アメリカの銃所有者は、銃をもっているほうがもっていないよりも安全だと言う。自衛はほとんどの国民から正当な欲求と理解されていて、そのため米国銃ロビー団体は、効果的な規制、特にアサルトライフルのような高性能武器の規制への呼びかけを、東海岸の腰抜けどもやワシントンのエリートたちの際限ないコントロール欲の症状だと言って批判する。 しかしゲーム理論を用いれば、そのような主張はナンセンスであることがわかる。実際のところ、武器の所有という個人的には合理的な行動も、集団としては合理的ではないのだ。みんなが武器を所有すると、個人の自衛という利点があっという間に「消えて」なくなる。 そのため、どんどん大きな武器を買うしかなく、最後には戦車がなければ近隣の安全が確保できなくなる。その戦車でさえ、そのうち頼りなく思えるに違いない。