『氷の微笑』監督の最新作『エル ELLE』 米国人女優が主演を拒絶した理由
米国人女優は主演を拒絶
当初、米国で製作するつもりで、米国人俳優でキャスティングをスタートさせたのだそう。だが、「これほどまで道徳に囚われない映画に出演してくれる米国人の女優は、ただの一人もいなかった」とヴァーホーヴェン監督。 そんな時、ミシェル役に名乗りをあげたのが、フランスを代表する女優イザベル・ユペールだった。レイプシーンは衝撃的だが煽情的ではない。ミシェルは犯人を撃退したのち、坦々と事後処理をし、息子を迎え入れ、何事もなかったかのように日常に戻る。そして犯人に対してある行動に出る……。彼女の気持ちの強さゆえ、レイプシーンの撮影はアクション映画のように撮られたのではないか。そう思ってしまったと告げると……。 PV:「それは違う。私はこれまでたくさんのアクション映画を撮ってきた。そして、それらにほぼスピリチュアルな価値はない、そう思っている。裏打ちする心理学的な深淵もね。イザベルは、ミシェルを理解することはできないけど演じられると言ってくれた。それこそ我々が受け入れるべきミステリーだと思う。イザベルは直感で演じることができるし、僕もそういうふうに撮ったつもりだ。ただレイプシーンについては、そこを映画の焦点にしないためにも、30~40秒とごく短く、かつ非常にバイオレントに撮るよう心がけた」 レイプ事件の被害者はこうあらねばならないと常識や道徳で縛り付けることも、紋切り型な勧善懲悪にはめ込むことも、ヴァーホーヴェン監督は一切していない。むしろ自身の気持ちのままに行動するミシェルの様子をクールに映し出す。そういう意味ではとても新しく、“大人な”映画だ。 PV:「まさにその通り。僕もイザベルもそう感じたからこそ、この映画をやりたかったんだ。自分がすべてを理解していなくても、何かそこに“正しい”と思うものがありさえすれば挑戦すべきなんだ。ただ、それを説明しようとするとうまくいかないんだけれどね」