【連載】会社員が自転車で南極点へ9 南極旅行で気になるトイレの処理とは
慣れようにも、慣れないこと
会社員が自転車で南極点へ9 大島義史 THEPAGE大阪
午前6時、ガイドのエリックと僕は、徐に起きあがり、いつものように朝食の水をつくった。ラーメンを頬張り、テントを撤収し、ソリに荷物を括り付け、出発の準備をする。今日で3日目。そろそろこの作業にも慣れてきた。が、ひとつだけ、慣れようにも、慣れないことがある。それは「トイレ」だ。南極でトイレはどうするのか? それは僕にとって最大の関心事のひとつだった。
テントの中で恥ずかしい思い
普段、僕は一人で自転車旅行をしている。だから、トイレで悩んだことはない。小さい方をしたくなれば、テントの外に出て、そこらへんでする。大きい方をしたくなれば、やっぱり同じように外でする。屋外で用を足さなければならないのは、人気のない砂漠や荒野、雪原がほとんど。誰かに見られる心配もないし、邪魔されることだって、ない。完璧にストレスフリー。むしろ、背徳感による興奮作用すら感じる。 しかし、今回はどうだ?エリックは、執拗にテントを1つにして、二人で使用することを迫った。僕は嫌だった。だって、トイレどうするんだ?って、思うじゃないか。結論から書いておきたい。小は中でした。大は、外でした。 中で小をするのは、はっきり言って恥ずかしかった。エリックがすぐ傍で、じょぼじょぼと音を立てて排泄する。閉め切られたテントの中では音が響く。臭いもする。目をそむけていても、その生々しい光景が脳裡に浮かぶ。小は、尿瓶にして、あとからまとめて捨てる。南極は、ゴミ持ち帰りが原則だが、何故か小だけは捨てることが許可されていた。 当初、僕は恥ずかしさから外に出てやっていた。しかし寒さに耐えられなくなると、頬を真っ赤に染めながら、中でした。多い時には一晩で2Lも出た。寒いとトイレが近くなるのだ。
トイレのたびに重くなる荷物
一方で、気になるのは大。これは油断できない。外でするとき、テントの風下にポジションをとらないと、南極の風に直撃されて、冷える。冷える場所は、あの一番デリケートな部分だ。凍りつくレベルで冷える。現に、大は“産まれた”瞬間から凍りついている。生身の身体も然り。 そして、その大は全て持ち帰る。水分がたっぷりだから、妙に重い。食料は全て乾燥食品である。その乾燥食品に水を加えて食事をつくり、その食事から大がつくられる。つまり、僕達の荷物は徐々に重くなっている?・・・そんなことすら考えてしまう。 3日目は、89度17分まで走行。10時間、走ったり、押したり。24キロ程、進んだ。やっぱり、時速2キロ。それでも、昨日よりは、だいぶ速くなったと感じる。 4日目は、89度30分まで走行。同じように10時間。路面が固くなってきたためか、自転車に乗る機会が増えた。29キロ。ちょうど、ここで南極点まで半分の距離だ。 南極は、真夜中になっても、昼のように明るい。「急いではいけないよ。」「ここは日が沈まないんだからね。」エリックは言った。そうだ、焦ってはいけない。ここは南極大陸。自分達で決めない限りは、時間は止まったままなのだ。