朝露接近に韓国・進歩系紙の「尹政権の価値外交批判」には違和感 澤田克己
率直に言って筆者が驚かされたのは、翌日の進歩系紙「ハンギョレ新聞」が掲げた「朝露の結束を呼び寄せた尹政権、対外政策を全面再検討せねば」という社説だった。こうした危機的状況を迎えたことには「政府(尹政権)がこの間に進めてきた偏った『価値外交』が大きな役割をしたのは否定できない」と断じたのである。 ロシアと北朝鮮の急接近は2022年2月のウクライナ侵攻を機に始まり、ロシアの弾薬不足によってさらに加速した。19年2月にハノイでの米朝首脳会談で制裁解除を引き出すことに失敗し、核・ミサイル開発に拍車をかけていた北朝鮮にとっては願ってもなかったことだろう。 侵攻開始時の文在寅(ムン・ジェイン)政権も対露制裁に加わり、ロシアが侵攻直後に発表した「非友好国」48カ国の一つに挙げられている。米韓同盟を安全保障政策の基本としている以上、進歩派政権であっても制裁に加わらないという選択肢はなかったということだ。 侵攻開始の2カ月半後に発足した尹政権が「価値外交」を掲げて日米との安保協力を推し進めたのは事実だが、その背景にあるのも米中対立の長期化と米露対立の深刻化だ。それを考慮しないまま、尹政権の外交が露朝接近に「大きな役割」を果たしたという主張には首をかしげざるをえない。 ただ、ハンギョレ新聞も4日後の社説では「外交惨事に近い対露外交の失敗だ」と批判しつつ、「今回の朝露条約締結には新冷戦という構図が大きな影響を与えた。それだけに全てを尹錫悦政権の責任とすることはできない」と事実上の修正を図った。さすがに尹政権の外交を主因とするのは無理があるとなったのではないだろうか。そう思えるのである。 澤田克己(さわだ・かつみ) 毎日新聞論説委員。1967年埼玉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学中、延世大学(ソウル)で韓国語を学ぶ。1991年毎日新聞社入社。政治部などを経てソウル特派員を計8年半、ジュネーブ特派員を4年務める。著書に『反日韓国という幻想』(毎日新聞出版)、『韓国「反日」の真相』(文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)など多数。