朝露接近に韓国・進歩系紙の「尹政権の価値外交批判」には違和感 澤田克己
来日した韓国の保守派政治学者から「ロシアと北朝鮮の同盟関係復元を日本はどう見ているのか。韓国は大騒ぎなのだが」と聞かれた。韓国の保守派は「ロシアは北朝鮮の核保有を認める戦略的転換に踏み切った」と受け取り、ロシアへの反発を強めている。ただ一方で、進歩派の野党やメディアからは尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の外交姿勢への批判が目立つ。これも、韓国社会で深刻化する政治的分極化の表われと言えるのだろう。 ■北東アジア安保情勢の悪化 ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が6月19日に署名した「包括的戦略パートナーシップ条約」には、どちらかが侵攻されて戦争状態になった場合にもう一方が軍事的援助を提供するという条項が入った。1961年に締結され、冷戦終結後に失効したソ連と北朝鮮の同盟条約と基本的に同じ内容だ。 旧条約になかった「国連憲章51条と国内法に準じて」という文言が入っており、「自動介入条項」と呼ばれる旧条約の条文と同じ効力を持つか不透明な点は残る。それでも、プーチン氏が北朝鮮への軍事技術供与にも前向きな姿勢を示していることを考えれば、北東アジアの安保情勢を悪化させることは間違いない。 前述の政治学者は「ロシアはパンドラの箱を開けた。アジアの軍事バランスも完全に崩れてしまった」と危機感を示した。6月20日付の保守系有力紙「朝鮮日報」は社説で「北の砲弾をもらおうと韓国に敵対するロシア、代価を支払わさせねば」と反発した。 韓国政府は条約締結に「重大な懸念を表明し、糾弾する」という政府声明を発表するとともに、ウクライナへの武器供与を示唆した。実際に踏み切るのは簡単ではないものの、政府高官が韓国メディアの取材に「高度な精密兵器を北朝鮮に与えるなら一線を越えることになる」と述べてロシアをけん制している。 ■文在寅政権も対露制裁に加わった とはいえ、こうした危機意識が党派を超えて共有されているとは言いがたい。進歩派の最大野党・共に民主党の報道官は首脳会談のあった6月19日に、「極端な価値外交を標ぼうしてロシア、中国などと距離を置いてきた尹錫悦政権の外交が招いた結果だ」と批判した。