ヒズボラの戦闘員「約10万人」とイスラエルが全面開戦したらどうなる?
「国境なき緑」という環境団体を隠れみのに
【レバノンはガザより広い】 こうした恐怖に加えて、ヒズボラの攻撃を逃れて北部から避難した6万人のイスラエル人が抱えるジレンマもある。彼らは安全だと確信できるまで故郷に戻らないだろう。 ここでも、昨年10月の奇襲攻撃を考えれば、国境のすぐ向こう側に現実の脅威が存在する限り、市民の安全を保証するのは困難だ。 イスラエルはヒズボラの殲滅、またはヒズボラのリタニ川以北への撤退を目指して戦争に踏み切るかもしれない(リタニ川は06年の衝突後に採択された国連安保理決議1701条で定められたヒズボラの撤退ライン)。 06年の紛争終結後、イランはヒズボラの再武装を支援し、レバノンに再建資金を投入した。 おかげでヒズボラは戦争で破壊された多くのコミュニティーからの支持を勝ち得た。またヒズボラは「国境なき緑」という環境団体を隠れみのにしてイスラエル国境地域に戦闘員を送り込み、安保理決議を骨抜きにした。 イランは現在もヒズボラと緊密に連携しており、イスラエルとの衝突が再燃すれば大規模な財政支援と軍事支援を提供するだろう。 現実問題、イランが4月に仕掛けたイスラエルへの単独攻撃はほぼ失敗に終わっており、イスラエル国境にヒズボラという強力な仲間がいることの価値が再認識された。 加えて、ヒズボラへの武器供給は06年当時より容易になっている。イランと同盟国がイラン、イラク、シリア、レバノンをつなぐ陸路の回廊を支配下に置いているためだ。 本格的な戦争に発展しても、イスラエルがレバノンでの戦闘を長く続けることは難しいだろう。 イスラエル軍は1年近くに及ぶガザ戦争で疲弊しており、予備部品や弾薬、その他の必需品も長期戦を考えれば比較的、不足している。従って、より大規模な戦争になったとしても期間は限定的で、ヒズボラは嵐を乗り切れる可能性が高い。 ヒズボラとしては戦争を長引かせることもできる。 ガザにおけるイスラエルの戦略には、ハマスの戦力を分断して、さまざまな地域を占領し、ハマスの戦闘員を捕らえて組織を壊滅させることも含まれていた。 一方で、レバノンはガザよりはるかに広く、イスラエル軍が短期間で全土に展開することは不可能だ。レバノン南部の一部を再び占領すれば上出来だろう。 イスラエルは1982年にもレバノンに侵攻して南部に駐留したが、小規模な攻撃がやむことはなく、イスラエル側の犠牲者は着実に増えて2000年に撤退を余儀なくされた。 今のヒズボラははるかに手ごわい。どれだけ損害を被ったとしても、軍勢の大部分をいったん国境地帯から引き揚げ、イスラエル軍が撤退したら戻ってくるだけだ。イスラエル軍が駐留を続けた場合も、彼らはゲリラ攻撃を繰り返すだろう。