過去2回は「異変 」今回は「無難」 安倍首相のコロナ会見、どう開かれているの?
報道室職員「何か聞くことある?」
また同記者は、「幹事社は代表質問について官邸報道室とも事前にすり合わせていました。これは幹事社に限った話ではなく、会見が開かれる前には記者会内を報道室の職員が回り、『何か聞くことある?』と聞いていました。報道各社も、データなどを踏まえたしっかりした答えが欲しいため事前に質問内容を伝え、答弁を準備してもらうことでウィンウィンの関係にあるように感じます」と話します。 全国メディアに勤務する30代の男性記者も同様のことを述べています。 この記者は「幹事社の質問は事前に各社の同意を取った上で、報道室に教えていました。報道室は想定問答を作りたいのでしょう。はっきり言って、なれ合いです」と言い切ります。
質問者を指名するのは?
幹事社による代表質問の後は、その他の参加者による質疑応答が始まります。菅官房長官の会見と大きく異なるのは、菅官房長官が自ら挙手した取材者の中から指名するのに対し、安倍首相による会見では、首相自身が取材者を当てることはない点です。 なぜ違うのか、政府関係者やメディア関係者に聞いても「なんとなく」「昔からの慣例?」「考えたこともなかった」などの歯切れのよくない反応ばかり。明確な答えはないようでした。 現在、首相会見で質問希望者を指名するのは、会見の司会進行役も務める、内閣広報官・長谷川栄一氏です。長谷川氏は元通産省(現・経産省)の官僚で、第二次安倍政権が誕生した2012年12月から今に至るまでずっと首相補佐官を務める安倍首相の側近です。官邸取材経験のある30代の女性記者は「第一次安倍政権のころからの仲で、安倍氏が退陣した後も親交が続いたツーカーの関係です」と語ります。
指名される記者の傾向は?
では、長谷川氏によって指名される記者・報道機関に特徴はあるのでしょうか。 ある政府関係者は、「長谷川氏が何を基準に記者を指名しているのかは分からない」と述べた上で、「幹事社質問の後、海外メディアを一社は指名することが多いです。海外に対する情報発信という意味でも、それは傾向と言えるのではないでしょうか」と話します。 新型コロナウイルス対策に関する1回目の記者会見が開かれたのは2月29日です。このときは、挙手を続けたフリージャーナリストの江川さんが「まだ質問があります」と繰り返しアピールしながらも、指名されることなく会見が終了。この日、質問したのは幹事社の朝日新聞、テレビ朝日に加えて、NHK、読売新聞、AP通信の計5社で、江川さんは「事前に用意されていた5問で打ち切られ(た)」とツイッターで発信し、ネットメディアやSNSを中心に拡散されました。 この会見を受け、3月14日に開かれた2回目の首相会見では、フリーの記者やネットメディアにも質問機会が与えられました。指名された取材者の1人、政治ジャーナリストの安積明子さんは、報道室と事前調整はなかったとした上で、「当たってとても驚いた」と話しました。政府関係者は、「前回の教訓を受け、意識的に当てたのではないか」と推察します。 一方、この日は長谷川氏が質疑応答を切り上げようとした後、報道陣から「質問に答えてください」「時間取ってもいいんじゃないですか」などと抗議の声があがり紛糾。安倍首相が「いいんじゃない」と述べ、延長されました。記者クラブ側もこの日の会見に対し、「質疑応答の時間が短い」と官邸側に要請したそうです。 そして、3回目となった28日。大手メディアに並んで、江川さんやニュース専門ネット局代表の神保哲生さんも指名されました。過去2回と異なり、質疑応答で紛糾する場面もありませんでした。新聞社の男性記者は「これまでの2回を踏まえて、記者会見のあり方が注目を浴びるようになり、官邸側がリスクを回避し、無難に収めたのではないか」と分析。フリージャーナリストなどの指名については「これまでは当てないことによってリスクを回避してきたが、あえて当てることでダメージコントロールしたように思う」と語りました。ちなみに、首相会見では、首相の回答を受けて再度質問(更問い)をすることは慣例的に認められていないと言います。