廃線となった鉄道で新駅が開業 ── そのワケは? 鉄道ライター・伊原薫
観光資源としての価値が認められ、新駅開業へ
この展示運転が始まったのは平成10(1998)年。以来16年間、途中で線路の保守を徹底的に行うためのお休みを1年ほど挟みながら、月1回の展示運転は続けられてきました。そして今回「柵原ふれあい鉱山公園」の整備に伴い、展示運転の線路が延伸。かつての終点・柵原駅方向へ160m伸び、その先に新駅が開業することになったのです。駅名は公募で選ばれ、柵原鉱山で栽培されている特産品「黄ニラ」や、町をあげてPRしている「たまごかけごはん」の黄色にちなんだ「黄福柵原(こうふくやなはら)駅」と名付けられました。 ちなみにこの延伸、公園の整備の一環ということで、敷地の整地や駅舎建設は町が行ったのですが、その後の工事、バラストを撒き枕木を並べ線路を敷くまでは全て保存会が担当。1年以上、会員たちが毎週集まって工事を行いました。数人で力を合わせてレールを運ぶ、その中には女性の姿も見られました。「片上鉄道線OBや現役の鉄道会社社員に教えてもらいながら、本物の鉄道と同じ精度を確保しています」(保存会業務担当の森岡さん)とのこと。ショベルカーやバラストを運ぶ軌陸車(レールの上を走れる特殊なトラック)はなんと会員の個人所有で、信号機の取付から踏切整備までも自前でこなすなど、その技術力には驚くばかりです。
保存活動が町の活性化に貢献
そして特筆すべきは、この保存活動が町の活性化に貢献しているということ。毎月行われる展示運転には、全国から多くの人が押し寄せます。廃線となった後も、こうして鉄道は生き続け、観光資源として大きな役割を担っているのです。そしてまた、それを町や地元が認識しているからこそ、新駅が開業することになったのです。 線路の延伸と新駅・黄福柵原駅の開業は11月2日。また、通常の毎月第1日曜日に加え、11月23日には臨時の展示運転も行われます。柵原ふれあい鉱山公園は、大阪市内からも車で約2時間30分と、日帰り旅行にも最適。懐かしい昭和の雰囲気と、美味しいたまごかけごはんを味わいに、訪れてみてはいかがでしょうか。 (文/伊原薫/鉄道ライター) (2014年11月4日追記:当初発表した記事について、運営主体等について誤解を招く表現がございましたことをお詫びいたします。文中に「一日会員証を買うことで乗車できる」という旨の記載がありましたが、正しくは「展示運転日には片上鉄道保存会に一日会員として入会頂き、乗客役として展示運転車両への乗車を通じて保存活動にご参加頂けます」です。また、旧・片上鉄道線の保存および展示運転は、柵原鉱山資料館および片上鉄道保存会が行っております。保存・展示運転に関する問い合わせは上記までお願いします。) ■伊原薫(いはら・かおる) 大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。