『地面師たち』豊川悦司、悪の魅力を放つスーツスタイルの秘密
■服は違う自分に成り代わるいちばん身近なツール
「地面師たち」監督の大根仁氏のインスタでも、「どこに行っても地面師たちの話が聞こえてくる。ジムのサウナに行ったら、妙齢のご婦人たちが『トヨエツがいいのよね~』『そう!ワタシも踏まれたいわ~』『あの男にだったら殺されてもいいわよね~』『やだ、その前に抱かれたい!』みたいな会話をしていて、『もうええでしょう!』って気持ちになりました」というコメントが書かれていました。 当のご本人のトヨエツはというと、プライベートのファッションに関してはあまりこだわりがないという。メンズファッション誌『Men’s Ex』のインタビューでこんなことを語っている。 「仕事でいい服を着ることができるから満足できているんだと思うんですよ。服とか時計って自分を鼓舞してくれるものというか、やっぱりいいものを身に着けたら自然と気持ちが上がりますよね。それってすごく演技的というか、ちょっと違う自分に簡単に成り代わることができるいちばん身近なツールが服なんだと思います。実際、着る服で印象はガラっと変わるから面白いですよね」
■CMでアメカジスタイル、お茶目な中年おじさんを好演
確かに「地面師たち」でハリソン山中のようなキャラを演じたかと思えば、「キリン一番搾り 糖質ゼロ」のCMでは中条あやみさんと親子役を演じて、全国の糖質を気にしているおとうさんたちを代表して「それ、糖質ゼロだろ。俺はそういうの飲まないんだよ」と、デニムジャケットにジーンズを合わせ、キャップをかぶったアメカジオヤジスタイルで、お茶目(ちゃめ)な中年おじさんを楽しそうに演じている。 役者、豊川悦司にとって、ファッションは演技のためのツールなのである。次はどんなファッションでどんなキャラを、最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせてくれるんでしょう。ハリソン山中みたいな怖いキャラはしばらく「もうええでしょう!」 文:いであつし
いであつし
ライター、コラムニスト。1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「Begin(ビギン)」、「LaLa Begin(ララビギン)」などで連載コラムを持つ。 ※この記事は「THE NIKKEI MAGAZINE」の記事を再構成して配信しています。