家庭を壊し孤独を選んだのに、恋に落ちた女性に救いを求めることも…未解決事件に人生を捧げた捜査官の記録(レビュー)
十数人が殺害され、50人以上の女性が性的暴行にあった事件の捜査を明かした一冊『異常殺人―科学捜査官が追い詰めたシリアルキラーたち―』(新潮社)が刊行された。 アメリカ史上最大の被害を出したシリアルキラー「黄金州の殺人鬼」の正体を突き止めたポール・ホールズによる本作について、翻訳家でエッセイストの村井理子さんが読みどころを語る。
何万人もの素人探偵たち
アメリカにはコールド・ケース(未解決事件)を専門に扱う番組やポッドキャスト(インターネットラジオ)が多数存在する。そのジャンルの人気の高さが窺えるが、なにより驚くのは、未解決事件に関するコンテンツを熱心に視聴する人々の多くは、何万人も存在すると推定される素人探偵、あるいはインターネット探偵と呼ばれる民間人ボランティアであり、日々、未解決事件の犯人を追跡しているという事実だ。彼らはインターネット上の掲示板に集結し、活発に情報交換を行い、日夜、独自の調査を繰り広げている。発生する殺人事件の三分の一が未解決となるアメリカで、犯人を追跡するのは法執行機関の捜査官だけではない。警察OBや未解決事件専門ライター、そしてインターネット探偵といった人々の地道な努力によって、過去の多くの未解決事件が解決へと導かれているのである。 そんな民間人ボランティアの間で人気の元科学捜査官であり、未解決事件専門家が、本書を記したポール・ホールズである。彼を一躍有名にしたのは、「黄金州の殺人鬼(The Golden State Killer)」と呼ばれる凶悪犯ジョセフ・ジェイムズ・ディアンジェロの逮捕にDNA情報を用いることで寄与した実績だった。1970年代から80年代にかけて、カリフォルニア州を恐怖に陥れた連続殺人鬼ディアンジェロは、明らかになっているだけで13人を殺害、50人以上を性的暴行し、100件以上の強盗に関わったとされる。多くの証拠を残しながらも、その行方は30年以上も判明せず、一連の事件は迷宮入りしたと判断され、多くの被害者たちを酷いトラウマで長年にわたって苦しめ続けていた。世間から忘れ去られたこの事件を掘り起こし、捜査し続けたのがホールズだったのだ。ディアンジェロ逮捕の大ニュースは全米を揺るがし、ホールズが一躍、スター捜査官として有名となるきっかけとなった。ディアンジェロ逮捕の少し前に、保安官事務所を退職し、未解決事件専門家となったホールズは、数多くの未解決事件専門テレビ番組やポッドキャストに出演し続け、講演会で全米を飛び回っている。民間人となった今もなお事件捜査に関わり、八面六臂の活躍を続けている。