「心のバランスを崩した」10代で“脱ぐ女優”のレッテル…衝撃的な役柄でデビューした高橋惠子の今
もっと自分を大切に。頑張ることをやめて楽しむことに
少女時代が人生の第1ステージだとするなら、第2ステージはデビューして世間を騒がせたころ、第3ステージは結婚し、子育てと仕事に忙しかった時期。子どもたちが独立した今は、第4ステージだろうか。 「私という同じ人間なんだけど、変わっていくんですね。脱皮するみたいに」 第4ステージになり、自分に誓ったことがある。 一つ目は、“妻とはこうあるべき”をやめること。 「仕事の流れで飲みにいくことはあったけど、友達と飲みにいくために夜出るってことはなかったんです。自分の中で勝手に、夜遊びに行くべきではないと思い込んでいたんですね。この間初めて、夜、飲みに出たんです。成人している孫と。楽しかったわ」 二つ目は“もっと自分を愛し、大切にする”こと。 「この自分と死ぬまで付き合っていかなきゃいけないんですよ。なので、自分のことをまず愛そう。ダメなところもひっくるめて受け入れよう、そういうふうに思えるようになりました」 高橋監督とは、食べ物の好みが違うそう。監督は、ひじきやきんぴらなどの家庭料理が嫌い。 「それまでは気を使って作らなかったけど、いや待てよ、自分のために作ればいいんだわって。夫が嫌いな煮物もひじきも、自分のために作っています」 三つ目は“頑張ることをやめて、楽しむ”こと。 「若いときは、こうなりたいと目指すものがあると、それに向かって“頑張ろう”って。今は“楽しもう”に変えました。 楽しんで、周りの美しいものをちゃんと感じたり、味わったり、よく聞いたり。散歩していて鳥の声とかするじゃない、ちゃんと聞こうって思うようになったんです」 そして、女優業のほかにやりたいこともある。 「日本文化を海外に伝えたいと、ずっと思っていたんです。 日本人の相手を思いやる気持ちとか、自然を愛でる心とか、着物もなくしたくないと思います。 日本語って主語なしで話すでしょう。私もあなたも、結局はどこかでつながっているというか、そういう感覚をもともと持っているんじゃないかしら。欧米の人たちは、個々がしっかり分かれていて、だからハグをしたりして、一つになろうというのがあるのかな、そんなことを考えているんですよ」 コンピューターやSNSがどんどん進化して、ついていけないと思う人は少なくないはず。でも惠子さんは新しい時代の変化に、わくわくしている。 「どんどん変わってきて、生身の人間とAIが作り出す世界が融合して、そういうのは今までに経験がない、それを体験できるんですよ。20年前には考えられないことが、これからの20年ってもっと変わっていくと思うんです。それが人間にとって、いいカタチになるといい、自然を大事にしてね」 来年の舞台は、ナチスに息子を殺された母の役を演じる。役作りをしながら、今の時代にも思いを込める。 「死んで極楽じゃなく、今、生きているここが極楽になるといいなと思います。人間の争う心とか、人を妬んだり羨んだり、比較したり……心の持ちようで歪めてしまうのはもったいないです。美しいものがいっぱいあって、このままで極楽なのに」 <取材・文/藤栩典子> ふじう・のりこ フリーライター&編集者。料理、ガーデン、インテリアなど生活まわりを取材・編集。『島るり子のおいしい器』(扶桑社)『上條さんちのこどもごはん』(信濃毎日新聞社)『美しきナチュラルガーデン』、『66歳、家も人生もリノベーション』(共に主婦と生活社)などを手がける。