和食中心の女性は脳の萎縮が少ない
洋食中心の食生活を送っている女性に比べ、和食中心の女性では脳の萎縮が少ないことが、日本で行われている老化に関する疫学研究で明らかになりました(*1)。 ●日本人を長期に追跡した研究で、脳の萎縮と食習慣の関係を検討 高齢者の認知機能の低下の背景には、加齢による脳の萎縮が存在します。近年のMRI検査の進歩により、認知機能の低下に先駆けて生じる脳萎縮と長期的な食習慣の関係を検討する研究が行われるようになっています。健康的な食習慣として知られる地中海食が、脳の容積と構造の維持に役立つことを示した結果も報告されました。 しかし、日本には地中海食が定着していないことから、日本の高齢者の脳容積の維持に役立つ食習慣を明らかにする必要があると考えた国立長寿医療研究センターのShu Zhang氏らは、日本の中高年者の食習慣と脳萎縮の関係を検討しました。 同センターが実施している、日本人の老化に関する長期縦断疫学研究の第6次調査(2008年7月から2010年7月まで)と第7次調査(2010年7月から2012年7月まで)の両方に参加した人を分析対象としました。1997年11月に始まったこの調査は、愛知県大府市と東浦町の40歳から79歳の住民を登録して、隔年で継続実施されています。 食習慣は、3日間の食事の内容の記録を用いて評価しました。男女別に食べていた食材と調理法に基づいて食事のパターンを分析したところ、男性(815人)は、「洋食」「野菜・果物・乳製品の摂取量が多い食事」「和食」のいずれかに、女性(821人)は、「洋食」「穀物・野菜・果物の摂取量が多い食事」「和食」のいずれかに分類されました。 第6次の評価時点と第7次の評価時点で行ったMRI検査の画像を比較し、脳の全灰白質、全白質と、前頭葉、頭頂葉、後頭葉、側頭葉、島葉といった部位の容積の年間変化率を算出しました。
和食群の女性は、脳の全灰白質の年間萎縮率が少なかった
認知症患者や頭部外傷歴があった患者を除外して、1636人(40.3歳~89.2歳)を分析対象としました。追跡期間の平均は2年になりました。 対象者の脳容積の年間変化率と食事のパターンの関係を、年齢、BMI(体格指数)、病歴、生活習慣などを考慮して分析したところ、洋食群の女性と比較すると、和食群の女性の脳では、全灰白質の萎縮が年間に0.145%少ないことが明らかになりました。脳の部位ごとに分析すると、頭頂葉の萎縮の有意な減少が認められ、前頭葉の萎縮も少ない傾向が見られました。他の食事パターンや脳の他の部位の萎縮との関係は有意になりませんでした。 男性では、食事パターンと脳萎縮の変化率の間に有意な関係は見られませんでした。 灰白質の萎縮は、正常な加齢の過程でも進行しますが、認知症およびアルツハイマー病の患者では萎縮が大きいことが示されています。今回の結果は、日本人女性においては、和食を中心とする食事が脳の健康の維持に役立つ可能性を示唆しました。著者らは、「対象者をさらに長期間追跡して、食習慣が脳の健康に及ぼす影響を確認する必要がある」と述べています。 *1 Zhang S, et al. Nutr J. 2024 Mar 12;23(1):34. (大西淳子=医学ジャーナリスト)