「とにかく、勝つこと」 王貞治が語る“長嶋茂雄”と“ジャイアンツ・プライド”【巨人90周年インタビュー】
巨人の球団創設90周年のメモリアルイヤーを記念して、栄光に彩られた歴史、数多のスターたちを網羅した『ジャイアンツ90年史』が6月3日に発売される。そこで誌面に登場する豪華な4人&1組のロングインタビューを、一部抜粋した週べ特別編集版にて「ちょっと出し」でお届けしよう。1回目は王貞治インタビューから。 【選手データ】王貞治 プロフィール・通算成績
ミスターたる所以
V9を彩ったもう1人のヒーローである長嶋茂雄とは、王貞治が入団時の1959年からコンビを組んできた。同年6月25日(対阪神、後楽園)の天覧試合で初めて放ったONアベックホーマーも、球史に燦然と輝く記録であることは言うまでもない。 「そのときの僕は、入団1年目ですからね。まだ、そんなに打ってはいないんですよ。そのシーズンの確か、4号目くらいでした。アベックホームランはまったく意識していなかったです。僕は天覧試合なんていうことは忘れていましたよ。試合に集中していましたから。選手は試合が始まったら、すべて周囲のことは忘れていますからね。意識しているわけにはいかないんです」 だからこそ、多くのファンを魅了し続ける長嶋は、王にとっても絶対的な存在だった。 「長嶋さんは、僕が入ったときからスーパースターで特別な存在でした。そばで見ていても、『これぞ、プロ!』という感じがしましたからね。野球選手というのはどちらかと言えは技術屋ですから、地味な存在なんですよ。でも、長嶋さんは実に華やかでした。もちろん、長嶋さんも僕と同じ技術屋なんですけど、僕は人の目を気にしなかった。だけど、長嶋さんは『見られる』という意識を持ってプレーしていた。そこが最も大きな違いですね。あのころは物干竿の藤村(藤村富美男、阪神)さんとかもいたけど、ファンを意識した野球というのは、長嶋さんが最初でしょうね。だから、初代“ミスタープロ野球”なんです。毎日打席に立ちながら、ファンのことも考えていた。これはもう、われわれには想像もつかないことですよ。それをメディアが、より一層盛り上げていくという時代でした」 記憶ではなく、記録に情熱を燃やし続けてきた王にとって、最も誇れる勲章とは何か。 「僕が最も誇れるものは、ジャイアンツで最も多く打席に入っていることです。ホームランを打ったこと以上に多くの試合に出続けたことが、僕の一番の誇りですよ。それが僕のプライドなんです」 現役22年間の通算打席は1万1866を誇る。巨人で2位につける長嶋の打席数9201を超え、ダントツである。